本業ではピッツァシェフとして働きながら、週末はマーケットに立つ。
今、彼がそこで提供しているのは、自身の原点である「ピザ」と、自ら道を切り拓いた「抹茶デザート」の二つの顔です。
最初から順調だったわけではありません。むしろ、本来やりたかったピザの道が一度は閉ざされたからこそ、別の道を考え、動き、形にしてきた。その執念と行動力が、現在の「TIKI PIZZA」と「Matcha Garden」という二つの挑戦に繋がっています。
「このまま雇われのまま歳を重ねていくのか。
いや、それは自分の生き方じゃない。」
そんな強烈な危機感をきっかけに、Ryoさんは“いつか”ではなく“今”動くことを選びました。 今回は、彼が一歩を踏み出した理由と、カセドラル広場やJapan Fiesta出店へと加速する現在地について話を伺いました。
Q1. 料理の道に入ったのはなぜですか?

実は、最初から料理に興味があったわけではありません。
学生時代にカフェでアルバイトを始めて、バイト仲間の賄いを作るようになったのがきっかけです。
最初は冷凍のジャンバラヤをフライパンで温め直すだけ、みたいな感じでした。
でもその中でも、「どうしたらもっと美味しくできるか」を毎日のように考えていました。
バイト仲間の「美味しい!」という一言が嬉しくて、それを聞きたくてフライパンを振っていた感じですね。
卒業後は、イタリア料理、日本料理、居酒屋といろいろな現場で働いて、29歳で独立しました。
創作居酒屋をオープンして、11年間オーナーシェフとしてやってきました。
その後、店を売却してクライストチャーチに来ました。
振り返ると、料理そのものより、料理を通して人に喜んでもらえることに惹かれてきたんだと思います。
Q2. マーケットに出ようと思ったきっかけは?

働き始めた頃から、いつかはスキルを磨いて独立したいと思っていました。
最初はピザ屋としてマーケットに出たかったんです。
でも、どこのマーケットにもだいたいピザ屋さんがいるので、出店の相談をしても断られてばかりでした。
それで、どうしようかといろいろ考えた末にたどり着いたのが、抹茶を使ったデザートでした。
もともと、サンデーマーケットのあのピースな雰囲気が好きなんです。
おじいさんもおばあさんも、大人も子どもも、みんな楽しんでいる。
ああいう場所で、自分も美味しいものを出して喜んでもらえたらいいなと思っています。
ただ遊びに行く側ではなく、自分もその場に立ちたい。
「ここで一発当てたるで」と思いましたね。
3、4年前から、いつか自分の店を持つ日が来るんだろうな、とぼんやり考えていました。
でも、ある時ふと思ったんです。
「それって、いつやねん?」
「今やろ。もうええ歳やぞ。」
そうやって自分で自分にツッコミを入れて、具体的に考え始めました。
Q3. 実際にマーケットの舞台に立ってみて、手応えや現場で学んだことはありますか?
不安よりも、ワクワクの方が圧倒的に大きかったです!もともとポジティブなので、今でも毎回ワクワクしますね。もちろん「売れなかったらどうしよう」と不安になることもありますが、そんな時はボブ・マーリーを聴いてリラックスします。
「ラスタマン・バイブレーション・イズ・ポジティブ!」ですね(笑)。
ただ、実際に出店してみると、地域や天候、時間帯によって客層も売り上げもガラッと変わる。現場でやってみないと分からないことばかりでした。あとは「風のパワー」ですね。強風でテントが飛ばされそうになった時は、本当に衝撃を受けました。
でも、そうした現場でのやり取りすべてが勉強になります。抹茶ティラミスについては8割のお客さんに喜んでもらえて素直に嬉しいですし、残りの2割の方からの「苦すぎる」「海藻の味がする」といった率直な意見も、次へのヒントになります。
面白いのは、昔イタリア料理店で修行していた時、毎日のようにティラミスを作らされて「ほんまきついな……」と思っていた経験が、今そのまま生きていること。日本での11年間のオーナー経験も含め、あの時しんどかったことも、全部無駄じゃなかったんやなと強く感じています。
Q4. 日本人としての「抹茶」と、職人としての「ピザ」。この二つの武器を選んだ理由を教えてください。

世界的に抹茶がブームになっているのは、SNSを見ていても分かります。その中で、日本人である自分が作ったデザートがクライストチャーチで人気になったら面白いなと思ったんです。「抹茶ラテは作れても、抹茶ティラミスは簡単には真似できへんやろ!」という職人としての自負もありました。
ただ、抹茶を単なる流行で終わらせるんじゃなく、日本文化として大切にしたい。正直、最初は知識なんて全然なかったんですが、「ほんまもんの味、俺が教えたるわ」という根拠のない自信だけはありました(笑)。
一方で、僕の原点はやっぱりピザ。一度は出店を断られたけれど、諦めきれずに準備を進めてきたのが「TIKI PIZZA」です。日本人としてのアイデンティティ(抹茶)と、長年磨いてきた技術(ピザ)。この両軸があるからこそ、自分にしかできない表現ができると思っています。
Q5. これから販路や出店場所を広げていくにあたって、どんな展開を考えていますか?
抹茶については、最初は友達のケータリング屋さんに売り込むところから始まりました。これからはカフェを中心に、自分の足で卸先を増やしていく予定です。英語で営業なんてしたことないんですが、最後は言葉より「味」やと思っています。食べてもらえれば、絶対納得してもらえるはず。
そしてピザについては、いよいよ攻めに転じます。クライストチャーチの象徴であるカセドラル広場での出店、さらにはJapan Fiestaというイベントで出店しています。並行して、もっと身近に味わってもらえる自宅での販売も開始しました。
まずは身近なところからでも、僕の味をちゃんと知ってもらうこと。抹茶とピザ、どちらも全力で「一発当てたるで!」という気持ちで走り続けます。
Q6. なぜ、そこまで「独立」にこだわるのでしょうか?

理由は一つではありませんが、一番は「自分の思い通りのものを形にしたい」という情熱です。 ニュージーランドに来ていくつかレストランで働きましたが、実は過去に2回クビになってるんです(笑)。自分が納得できない命令にはどうしても従えなくて。だからこそ、自分の責任で、自分のイメージを具現化できるか試してみたい。経済的な束縛からも解放されて、仲間と一緒にハッピーになれる場所を作りたいんです。
また、日本の器やアートを伝えるギャラリーのような空間を作りたいという夢もありますが、根底にあるのは家族との時間です。 8歳になる息子ともっと一緒に過ごしたい。息子にはいろんなことにチャレンジしてほしいし、僕自身もまだ成長していたい。「親父もまだ頑張ってるぞ」という背中を見せながら、一緒に成長していきたいんです。
Q7. 本業と副業の両立で、迷いや壁はありましたか?
迷いはあまりありませんでした。考えすぎると動けなくなる気がしたので、とりあえずやってみよう、くらいの感じで始めました。
今働いているレストランのボスにも相談して、週末のシフトを休みにしてもらえたので、その環境にはすごく助けられています。
ただ、始めてから感じた壁はあります。ひとつは、原価の高さです。自分としては、食材に妥協したくないんです。
京都・宇治の抹茶、イタリアのビスケット、マスカルポーネチーズ。ちゃんと良い材料を使いたい。そうすると、どうしても原価は上がります。
でも、そこを下げてしまったら、自分が作りたいものではなくなってしまう。だから今も、品質と価格のバランスをずっと考えています。
Q8. 将来つくりたいセレクトショップは、どんな場所ですか?
自分の好きなものが集まった、ギャラリーみたいな場所にしたいです。
抹茶もそうですが、日本各地で作られているものって、本当に品質が高くて、それぞれに個性があります。
器や洋服、包丁、アートもそうです。どれもただの商品ではなくて、その土地や作り手の感性が詰まっているんです。
そういうものを集めて、来てくれたお客さんの感性や感覚が満たされるような場所にしたいですね。
ただ買い物をする場所じゃなくて、
「なんかええな」
「この空気、好きやな」
と感じてもらえるような場所にしたいです。たぶん、自分にとってもすごく大切な場所になると思います。好きなものを形にして、それを人と共有できる場所。そんな空間を作れたらいいですね。
Q9. 踏み出せない人に伝えたいことは?
アントニオ猪木さんの『道』という詩が、僕はすごく好きなんです。
「この道を行けばどうなるものか、危ぶむなかれ。危ぶめば道はなし。踏み出せばその一足が道となり、その一足が道となる。迷わず行けよ、行けば分かるさ」
僕自身、抹茶ティラミスを思いついたその日に試作を作り、その日のうちに友達に連絡して、翌日には売り込みに行きました。「あーだこーだ」と考えているうちに時間は過ぎていくけれど、動けば必ず何かが変わります。賛同してくれる人や、応援してくれる人が現れるんです。
やって失敗するより、やらずに終わる人生の方が後悔は大きい。死ぬ間際に「あの時、なんでやれへんかったんやろ」って思いたくないじゃないですか。完璧じゃなくてもいいから、まず一歩踏み出してみる。その一足が、必ず次の景色を見せてくれます。
まとめ|一歩踏み出した先に、次の景色がある
今回のお話を通して強く感じたのは、Ryoさんの挑戦の原動力が、とてもシンプルで、とても強いことでした。
もっと自由に生きたい。
自分の力で稼ぎたい。
日本人であることを価値に変えたい。
そして、家族との時間も、自分の人生も、もっと自分で選びたい。
その思いが、マーケット出店につながり、抹茶ティラミスの卸につながり、その先の店づくりの構想へとつながっています。
まだ完成ではない。
でも、思いついたその日に連絡し、次の日には売り込みに行った行動力が、すでに次の扉を開き始めている。
そこに、この挑戦の本質があるように思いました。
“いつか”を考えるだけでは、何も始まらない。
けれど、“今”動けば、景色は変わる。
Ryoさんの言葉と行動は、そのことをまっすぐ教えてくれます。
【Ryoさんの最新情報・出店スケジュールはこちら】
今後のカセドラル広場やJapan Fiesta、自宅販売などの最新情報は、各Instagramからチェックしてみてください。
* TIKI PIZZA(ピザ) https://www.instagram.com/tiki_pizza_christchurch_/
* Matcha Garden(抹茶デザート) https://www.instagram.com/matcha_garden.nz/
* Ryoさん個人アカウント https://www.instagram.com/luigi_inamine/
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