NZラグビー代表高校に、日本人留学生が選出!
ロトルアに、ロトルアボーイズハイスクールという男子高校があります。
常に北島でトップを争うラグビーの強豪高校です。ここ数年は、あと一歩のところでなかなか全国トップ4になれなかったのですが、2015年、新しいラグビーコーチを迎え、とうとう念願の全国優勝を成し遂げました。2002年、2003年にもニュージーランドで高校チャンピオンになったので、実に12年ぶりの全国制覇です。
今年のゴールデンウィークに福岡県宗像市で行われるサニックスワールドラグビーユース交流大会に、ロトルアボーイズハイスクールは、ニュージーランド代表として出場します。
うれしいことに、このサニックス大会に出場する一軍チームのメンバーの中に日本人留学生が一人選ばれています。今年、Year13のユウキ君です。
ロトルアボーイズハイスクールには、ラグビーに特化した授業がある。
ロトルアボーイズハイスクールでは、Rugby Academy(ラグビーアカデミー)というラグビーの特別授業が毎日1時間、週に5時間(5コマ)行われています。ウェイト、フィットネス、スキル、ゲーム戦略など、一年間を通してのプログラムが組まれており、この授業でもLevel2 , Level3を含むNCEA12単位と、高校独自のラグビーアカデミー修了の単位が、最大24単位取得できます。
海外からの長期および短期ラグビー留学生に加えて、ラグビー部の一軍の生徒たちも、このラグビーアカデミーを受講しています。
プロのコーチが高校生を教える。-Director of Rugby Mr.Ngarimu Simpkins
アカデミーの先生は、Ngarimu Simpkins(ナリム シンプキンズ)さん。ロトルアボーイズハイスクールのDirector of Rugby(ラグビーダイレクター)です。
現在、ロトルアボーイズハイには、一軍、二軍A,B、三軍、U15 A,B、U14 A,B,Cのチームがありますが、ナリムさん一軍のコーチであり、すべての年齢とレベルのラグビーチームの総監督でもあります。
アカデミーの前には、生徒に声をかけ、全員の体調や怪我にも気を配っています。
ロトルアボーイズハイスクール ラグビーアカデミー
そんなロトルアボーイズハイスクールのラグビーアカデミーの授業をご紹介します。
この日のラグビーアカデミーは、フィールドでの練習。
まずは、ランニングパスでウォーミングアップ。
ボールをキャッチしたら、投げる動作に入るとき腕に反動をつけず、キャッチしたポイントからすぐに投げること。
その基本に忠実に練習を積み重ねているYear13の生徒は、さすがに上手です。ボールをキャッチしてからパスを出すまでの動作が早く、スピードのある良い軌跡のパスをします。
彼が、サニックス大会のメンバーに選出されたスクラムハーフのユウキ君です。
二つのチームに別れて、ミスしないでいかに速く全員がパスを終えるか、タイムトライアルのゲームをします。みんな味方チームに声援を送り、盛り上がります。勝ったチームは歓声をあげ、負けたほうは、その場で腕立て伏せ10回。
ラグビーアカデミーは、最初から、全員が積極的に参加する楽しい授業です。
本日のアカデミーで学ぶことは、Taking Space
いよいよ、本日のラグビーアカデミーの授業のメインの部分にはいります。
今日は、”Rack Solution(ラックでの動き方)”の一つを学びます。
ナリムさんがこのように説明します。
「本日学ぶ一番大事なポイントは、”Taking Space(スペースを得る)”だ。
タックルをし相手が倒れた場合、そのあとにすぐに(ジャッカルの体制から)ボールをとるのも一つの方法だけど、倒れている相手を乗り越えさらに前に出て、味方側にスペースを作ることも有効な攻撃方法だ。
倒れた相手からすぐにボールを取れる確率は、五分五分であったとしても、自分がtaking spaceすれば、自分以外の味方がボールを保持できる確率が増えるんだよ。」
タックルは視線が大事。しっかり前をみてお腹を狙え。
まずは、Taking Spaceの練習から。
円柱形のタックルバッグを使い、敵にタックルをし、相手が倒れたと仮定します。
ここでも、タックルに対し、コーチのナリムさんのアドバイスがあります。
「相手を正面からタックルするときは、低い位置、相手のお腹の位置を狙うんだ!人間の肩から胸は強いから、弱い腹の部分を狙うんだ。」
「タックルの際、視線は下げるな!下をみずに、目はしっかり前を見て!」
そのあと、さらに前に進んで自陣地を保持するため、敵を阻止する練習です。四角いコンタクトバッグを持った敵チーム役を阻止します。
このときも、ナリムさんから、
「しっかり周りを見て。視線をさげないで。」
と指示が出ます。
最も重要なことは、テクニックではなく、正しいDecision Makingをすること
今度は、さらに一歩踏み込んだ練習。タックルバッグを使わずに、二手に分かれて、実際に動いてみます。
コーチのナリムさんがアドバイスします。
「前から、相手チームが来ているなら、すぐにボールをとるよりも相手選手を阻止して、自分側にスペースを作ることを優先すべきだ。反対に、自分のチームメイトが後ろに続いてきていなければ、Taking Spaceせずに、すぐに地面のボールをピックアップしたほうがいい。」
「常に周囲をみることがとても大事。状況に応じて自分がどのように動くのがいいか、瞬時に判断するんだ。」
「自分がどういうDecisionをするのか。正しいDecision Making をしなくてはいけない。」
名前を呼ぶ。そして、ほめる、ほめる。
ナリムさんが何度も口にしたのは、「Decision Making」(意思決定、判断)という言葉です。
良い判断をして、良いプレイをした生徒には、必ず名前を呼んでほめます。
「○○!良い動きだ!」「△△!今の判断は良いぞ!」というふうに。
良いプレイが続くと、練習はどんどん熱をおびてきます。良いプレイに対しては、名前を呼んでほめてくれるので、プレイしている以外の生徒たちもどのようなプレイがほめられるのか、他の生徒のプレイはどこが良いのか、食い入るように見ています。
生徒たちは、自分はどんな戦略でどんな動きをしようか、頭の中でシュミレーションしながら、一生懸命見ているし、ナリムさんの指示やアドバイスを聞き逃さないように集中して聞いています。
生徒の判断の間違いを正すときは、根拠を提示して説明する。
ニュージーランドの高校や小中学校のラグビーの練習をみて、いつも思うのは、練習の一つ一つがこまぎれになっておらず、練習に流れとつながりがあるということです。
例えば、タックルの練習にしても、タックルだけのの練習をするのでなく、タックルしてTaking Spaceして、ボールをターンオーバーされたら、またタックルにいって、というふうに、一つ一つの練習が試合のようにつながっているのです。
反対に、良くないプレイをした生徒がいると、ナリムさんは、練習をいったん止めて生徒に尋ねます。
「きみは、今、どういう Decision Makingをしたのか?」
「なぜ、そういう判断をしたのか?」
「もっと、他に動きのオプションはなかったか?」
生徒が良くないプレイをした場合、ナリムさんはまず本人に「どのような判断でそう動いたのか」を尋ねます。
ちゃんと答えられなかったり、判断が間違っていたりした場合は、「きみがこう動いたときに、敵がこの位置にいたのが見えていたか?見えていなかったのであれば、しっかり見ないといけない。見えていたなら、きみはこのように判断してこう動くべきだったかもしれないね。」とアドバイスします。
ニュージーランドのラグビーの練習でも試合でもそうですが、コーチや先生は、よくないプレイやミスに対して、決して声を荒げたり頭ごなしに注意をしたりはしません。
まずは、生徒がそう動いた理由を聞いて、それからその判断が間違っているならその根拠を説明します。
最後に、みんなで輪になりました。
今日学んだこと、試合の際にそれをどう生かしていくべきなのかをナリムさんが話し、本日のラグビーアカデミーの授業が終了しました。
中身の濃い充実した1時間でした。
このロトルアボーイズハイスクール ラグビーアカデミーの様子を動画でご紹介します。
https://www.youtube.com/watch?v=tC-jYqN6ivU
参考ウェブサイト
Rotorua Boys’High School
www.rbhs.school.nz
- 上野清子(Seiko Ueno)
- 新婚旅行でNZに魅せられ、1997年に夫婦でロトルアに移住。
- ジュニアからオールブラックスまで、NZラグビーが大好き。
- 娘一人。
- 留学エージェント「キックオフNZ」マネージャー
- モンテッソーリ小学校Trust Chairperson、通訳/翻訳。