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第6回 Tragedy of Commons (共有地の悲劇)

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私は、教職免許を取得した後、応用言語学の修士号と、教育心理学・応用言語学の博士号も取得したのですが、photo-06-1環境保全や環境教育学、それから環境心理学についてもっと勉強してみたいと思い、オークランド大学理学部大学院に入り直して、理学準修士号 (環境マネージメント) も取得しました。一言で「環境マネージメント」と言っても、数え切れないほどのトピックがあるのですが、これから何回かに渡って、私が興味深いと思ったトピックについてお話ししてみたいと思います。

環境問題と人の心理

環境マネージメントを勉強していくうちに 、環境問題と人の心理との密接な関係に気付きました。ある日授業の一環として、 政治・経済ジャーナリストのRod Oram氏による講義を聞く機会がありました。彼の講義の中でとても印象に残っているのは「環境問題の根本的な原因は、環境を汚染する物自体ではなく、別の3つのものだ」という言葉でした。皆さんは「それが何か」、良かったら読む進める前に、ちょっと考えてみてください。

環境問題の根本的な原因は、Oram氏によると、以下の3つだそうです。

  1. 「Selfishness (利己的行動・身勝手さ) 」
  2. 「Greed (強欲) 」
  3. 「Apathy (無関心・無感情) 」

全て人の心の在り方と関係があると言うのです。

「Tragedy of Commons (共有地の悲劇) 」とは?

人の心の在り方の問題をよく表している経済学の法則で、環境学でも議論されている「Tragedy of Commons (共有地の悲劇) 」というのがあります。「誰もが利用できる共有資源を、他者への影響を考えずに自己の利益を追求し続けて利用した場合に全体が被る不利益」のことです。

例えば、誰でも魚釣りができる湖を考えてみてください。節度を持って魚釣りしている場合は、湖の中の魚が絶滅してしまうことはないと思います。photo-06-2-Lところが、誰か1人が「釣れるだけ釣って、売ってできるだけお金を稼ごう。自分1人ぐらいならいいだろう。」と自分の利益追及をし始めると、状況は変わってきます。 「あの人だけずるい。あの人がやっているなら自分も」と、各自釣れるだけ魚を釣って収入を増やすようになると、その人達は一時的に経済が潤うようになります。しかし、釣りをする人もしない人も、魚の資源が枯渇してしまうかもしれない状況を何とも思わずにこのような行動を繰り返し許してしまうと、やがて湖にはほとんど魚がいない状態になってしまいます。資源がなくなることで、釣り人全員の経済だけでなく、その恩恵を受けていた消費者の食生活も成り立たなくなってしまいます。

「共有地の悲劇」の回避法

それでは、「共有地の悲劇」を回避して、持続可能な資源利用を実現するにはどうしたらいいのでしょうか。例えば、利用料支払いや課税、罰金など、法律で対処する方法がありますが、人の心の在り方が変わっていない場合、法律を破ろうとする人と取り締まりをする人との間でイタチごっこになる可能性があり、根本的な解決にはならないかもしれません。

Oram氏のお話では、環境問題を解決するために一番効果的な方法は、人が上記の3つの心の在り方を改めて「足るを知る心を持つこと」だそうです。そうすることで、「Selfishness (利己的行動・身勝手さ) 」と「Greed (強欲) 」 は弱まり、他者に与え他者を満たすという思いやりの心が生まれることで「Apathy (無関心・無感情) 」 も弱まることが期待できるからです。まさか老子の言葉を聞けるとは思っていなかったので驚きましたが、確かに原因をなくせば、根本的な解決が実現しやすくなると思います。しかし、人の心の在り方を変えるのは「言うは易く行うは難し」で、環境問題を解決する難しさも切実に感じました。

 
水谷公美 (みずたに さとみ)
 
オークランド在住。
兵庫県淡路島出身。
1995年阪神・淡路大震災に被災後、NZ移住。
動物・植物など自然が大好き。
日本語を教える仕事の傍ら、趣味が高じて理学準修士号(環境マネージメント)を取得。