前回、GPはプライマリーケアの担当であるお話をしました。
今回は、実際にGPクリニックでは、どんな仕事がされているのかについて説明したいと思います。
「プライマリーケア」とは?
前回の記事で少しお話しましたが
「プライマリーケア」とは何か、ご存知ですか?
米国国立科学アカデミー(National Academy of Sciences, NAS)のウェブサイトに「プライマリーケア」の定義が載っています。
ちょっと抽象的に感じられると思うのですが、これが、ニュージーランドのGP達が行っている医療を上手く言い表しているので、紹介しておきます。
『プライマリーケアとは、患者の抱える問題の大部分に対処でき、かつ継続的なパートナーシップを築き、家族及び地域という枠組みの中で責任を持って診療する臨床医によって提供される、総合性と受診のしやすさを特徴とするヘルスケアサービスである』
プライマリーケア担当であるGPは、全ての科の患者さんを診ます
GPクリニックには、緊急を除き、すべての医学的問題を持った方が訪れるわけですから、GPはほぼすべての科をカバーするということになります。
例えば
内科 | - | ほとんどの感染症、頭痛、喘息、慢性閉塞性肺疾患、アレルギーなど |
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外科 | - | マイナーな外傷 |
小児科 | - | ほとんどの感染症、アレルギーなど |
泌尿器科 | - | ほとんどの感染症、下部尿路症状、勃起障害、尿路結石の傷みへの対応など |
皮膚科 | - | アトピー性皮膚炎、初期の皮膚ガン、ニキビ、感染など |
精神科 | - | うつ病、不安神経症、不眠症など |
耳鼻科 | - | |
眼科 | - |
など、大半の問題は、GPのレベルで解決されます。
GPからセカンダリーケア(病院)の医師に紹介状を送らないといけないのは、主に
- GPがリクエストできない検査が必要である人
- GPが診断や管理に難渋する人
- がんや狭心症、心筋梗塞などセカンダリーケアでしか適当な治療が受けられない人達
ですね。
GPは全ての年齢、性別の患者さんを診ます
先に述べたように、GPは患者さんの年齢にかかわらず、診療します。
生まれてから、高齢または病気で亡くなるまでです。
普通は、赤ちゃんは4週間まで、お母さんの助産婦がケアをしているので、GPが初めて赤ちゃんに会うのは生後6週目が多いですが、その前に診察が必要になることもあります。
生後6週に定期の予防接種が始まるので、赤ちゃんのチェックと共に予防接種を実施。
患者さんが歳をとっていくにつれて、GPは急性の病気から、慢性の疾患、痴呆症まで様々な疾患のケアをします。
高齢の患者さんの為に、レストホーム(いわゆる老人ホーム)の入居者を診るGPや、自宅に往診に出掛けるGPも多くいます。
GPは予防的医学も担当します
GPが患者さんを診るのは、患者さんが病気の時だけではありません。
予防接種、検診から、禁煙の援助、食餌、体重管理、運動のプロモーションなど、病気を防ぐ為の健康管理の手伝いもします。
もしも予防接種について不安があれば、GPクリニックに連絡して、GPか看護婦さんと話しをしてください。
避妊の相談もGPクリニックで行っています。
GPクリニックの中には、子宮内避妊具(IUD)やインプラントの挿入、精管結紮術などを行うクリニックもあります(現在私の働くクリニックでは、全て可能です。)
GPは全人的、包括的なケアをします
例えば肩が痛く、同時に疲れがひどくなった人がいるとします。
日本にいたら、肩の件では整形外科にかかり、疲労の件では内科にかかるかもしれません。
それぞれの医者がそれぞれの検査をし(例えば、肩のレントゲンと血液検査)、それぞれが診断をつけて、治療を試してみる(例えば肩は理学療法士、疲れは炎症所見が上がっていたから感染症を疑って抗生物質とか)。
それでもなかなか良くならないので、更に検査する(肩にはMRI、疲れには尿検査、血液培養、心臓のエコーなど)何ていうことが起こるかも知れません。
ニュージーランドのシステムでは、症状別に色々な医師にかかる必要はありません。
GPにかかって、肩の痛みや疲れを相談したら、どちらの症状も「リウマチ性多発筋痛症」によるものだ、と診断がつくかも知れません。
また、別の1例として「咳が治らないから」とGPを患者さんが受診したとします。
GP受診時に「最近ストレスが多くて免疫力が落ちているのかな?」という発言があれば、どのようなストレスで、どのようにその人が対処しているか、GPから質問されると思います。
場合によっては、GPからストレス対処法をアドバイスしたり、カウンセリングなど他の医療従事者に紹介したり、ということもありえます。
このように、GPは主訴以外の要素も総合して、患者さんのケアを行うのです。
GPは家族全員のケアをします
上の赤ちゃんの例を取ると(お母さんも同じクリニックに登録していることがほとんどなので)
赤ちゃんの診察時に、一緒に来たお母さんの健康に問題はないか、サポートは十分あるか、避妊は必要かなどチェックし、必要なら改めてお母さんにGPを受診するよう勧めます。
例えば、子供がADHDと診断されており、親が子供への対応に苦労している場合は、親へのサポート。
老父婦の1人が痴呆症で、パートナーが世話をして燃えつきそうな時は、一緒に来たパートナーへのサポートなど、GPは診察を予約してきたその人の問題だけでなく、それに関連した家族内の問題などもケアします。
最後に
以上、簡単にGPの行っている仕事の紹介をしました。
ニュージーランドのGPは、かなり日本の開業医とは違う点がある事を、理解していただけたらなあと思います。
私のブログの中でも、もう少し詳しく書いているので、よろしければ参考にしてみてください。
「ニュージーランドの医療システムの中でのGPの役割」: https://nzdoctor.net/gp/medical-system
「ニュージーランドの医者の生活 GP 私の場合」: https://nzdoctor.net/gp/daily-life-as-gp
次回は、ニュージーランドの医療経済のシステムについて説明しますね。
質問があれば、お気軽に私のブログ https://nzdoctor.net からメッセージを送ってください。
- 野田のりこ (Noriko Noda)
- 日本で外科医として勤務後、2002年にNZへ移住。
- NZでも医師免許を取得。現在General Practice 専門医として働く。
- 音楽やクラフトが趣味。