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第11回 ニュージーランドの高齢者医療

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ご自分やご家族が高齢になってきて「ニュージーランドの高齢者ケアはどのようになっているのかなぁ」と心配になっている方もいらっしゃるかもしれません。
歳を取っても、基本的な『GPを受診して、解決しない問題は病院の専門医へ』と言うシステムは変わりません。
高齢者が受けられる援助が色々あるので、知らなくて機会を逃すことがないように、是非今回の記事から情報を得ていただければと思います。

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最近日本では、『看取り』まで自宅でしようとする動きが強くなってきてるようですね。
ニュージーランドでも、高齢者が出来るだけ長く家に居られるようにするシステムやサポートが多くあります。

高齢者のための施設

高齢者用のビレッジ

ニュージーランドでは、日本ほど『家』へのこだわりはありません。
郊外のLife style block に住んでいる人や大きな庭のある家に住んでいる人は、肉体的に家の周りの手入れなどが難しくなってくると、高齢者のためのビレッジ、resthomeに付随した家やアパートに移ってくることが多いです。
ある程度人口のある街には、高齢者用のビレッジが存在するので、近い将来ご自分やご家族が、年齢に合わせた住居に移る予定がある場合は、どの様な施設があるのか調べてみると良いと思います。

そういう場所に行きたくない人でも、最終的に運転免許を失う可能性を考えて、歩きかバスで買い物に行けるような場所の小さな家やユニットを選んだりします。
または、すでに成人した子供が住んでいる街に引っ越してくる、ということもありますね。
その辺りは、日本よりかなり身軽です。

Resthome 介護施設

サポートを得ても、自宅で暮らすことが困難になると、resthomeへ移ることになります。
ニュージーランドのResthomeは、日本の介護施設と同じです。
その施設により、痴呆症の方ばかり入るエリアがあったり、ある程度自立している人のアパートメントがあったり、病院レベルのケアができる施設があったりします。
資産がない方には、政府から入居費の援助があります。

NZ Work and Income (WINZ) からの経済的援助

Disability allowance

健康上の理由から家の周りの手入れができなくなったら、WINZからdisability allowanceを受けて、プロの業者さんにやってもらうことができます。
例えば、「腰が痛くて」とか「息が苦しくて」庭の芝刈りや庭の手入れが自分でできない、という場合ですね。
ただ、家の中の掃除はdisability allowanceはカバーしてくれません。
Disability allowanceを受けるには、収入の上限の決まりがあります。(2019年現在、一人暮らしでは$661.3/週、カップルでは$983/週です。詳細はWINZのサイトで確認してください。)
申し込みには、まずGPを受診して、指定のフォームをGPに書いてもらう必要があります。

Supported living payment

他の人の援助が常時必要な人が、レストホームに入らずに自分の家に住み続けるには、誰かが一緒に住んでいてくれる必要があります。
このような場合、一緒に住んでくれる家族(家族でなくても良いのですが、よくあるケースは成人の子供)にWINZはお金を払ってくれます。これはSupported living paymentと呼ばれます。
このsupported living paymentをWINZに申し込むためには、GPに行って規定の書類に必要事項を記入をしてもらうことが必要です。

高齢者をサポートする団体、システム

Needs Assessment and Service Coordination service (NASC)

NASCはDistrict Health Board (DHB)のサービスなので、自分で連絡して申し込む事はできません。
自分やご家族が高齢または病気のために、パーソナルケア(ご飯を食べたり、シャワーをしたり、服を着たり)が難しくなってきたら、GPからNASCに紹介状を送ってもらってください。
NASCは患者さんの家を訪問し、どのようなサポートが必要なのかを決めます。
例えば、週に2回シャワーの手伝いと家の掃除とか、安全に歩けるように廊下に手すりを付けるとか、シャワーチェアを手配するとかです。
NASCの手配したサービスは、基本的に無料です。
一度NASCのアセスメントを受けると、その後はご自分で(またはご家族が)NASCに連絡して、サポートの量を変えてもらうことはできます。
(お住いの地方によってはできないかもしれませんので、その場合はGPクリニックを受診して、相談してください。)

その他のホームヘルプのエージェント

経済的に余裕のある方、政府からの援助が受けられない方は、ご自分でお金を払ってホームヘルプのエージェントに頼む必要があります。
こちらはご自分で調べて、連絡をとってください。

Age Concern

Age concernは全国に支所があるチャリティー団体です。https://www.ageconcern.org.nz/
一人暮らしの老人訪問サービスや、割引でタクシーや家の中のちょっとした仕事をする人を送ってくれたりします。
他にも高齢者向けのセミナーを行ったりしていますので、サポートが必要な場合は、是非お近くの支所に連絡して、どのような援助を受けられるか訊いてみてください。

Medical alarm 医療用のアラーム

これは一人暮らし、または高齢者だけのカップルで健康上の問題がある方は、考慮していただけると良いと思います。
救急車も運営しているSt Johnのアラームを最もお勧めします。
ある程度の条件を満たせば、WINZからアラーム設置に関して経済的援助を受けられるので、GPと相談してみてください。(GPがフォームに記入し署名することが必要です。)

その他、高齢者またはご家族が早めに用意しておきたいこと

元気なうちに、ご家族と話し合って、用意しておいていただきたいことがいくつかあります。

Enduring Power of Attorney (EPAまたはEPOA) (成年後見人)の指名

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EPAは自分の判断力がなくなった時に、誰かに判断を委ねる手段です。
EPAにはPersonal care and Welfare とProperty があります。
前者は自分の健康に関する判断に関するもの、後者は金銭的な事項に関するものです。
もちろんEPAを指名するのは、自分の判断能力があるうちに、弁護士などを通して法的な書類を作成しておかないといけないので、遺言状などと一緒に早めに手続きをしておきましょう。
例えば、痴呆症で判断能力が落ちてきた場合は、その旨をGPや病院の専門医が診断して、EPAを有効化させます。

Advanced care plan

これは自分の最期が近くなってきた時に、どのようなしたいか、どのようなケアを受けたいかなどを明言化しておくものです。
例えば、心停止になったら蘇生してほしいか、呼吸が止まったら挿管してほしいか、植物状態になったら点滴してほしいか、などをあらかじめ書面で明らかにしておきます。
もちろんこれを作らずに亡くなる方も多くいらっしゃいますが、用意しておけばご家族がこれに基づいていろいろなことを決定できます。
私は、自分の患者さんが書いたものを、その人のカルテの書類にスキャンしておきます。

最後に

歳をとること、死ぬことは誰も避けることはできません。
もちろん、高齢になったからというだけの理由で、スローダウンする必要はありませんが、その時に備え、情報を集めて準備をしておくことは大切です。
ご自分だけでなく、あとに残されたご家族のためにもです。

 

次回は、「アトピー性皮膚炎」「喘息」「花粉症」の治療について触れます。

野田のりこ (Noriko Noda)
 
日本で外科医として勤務後、2002年にNZへ移住。
NZでも医師免許を取得。現在General Practice 専門医として働く。
音楽やクラフトが趣味。
 
ブログ
https://nzdoctor.net