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第7回 ニュージーランドでの妊娠・出産

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「ニュージーランドに移住する予定だけれど、妊娠・出産の事が心配」とか、「ニュージーランド人と結婚し妊娠したけれど、どういう手続きをとればいいのかわからない」という方、いらっしゃいませんか。
今回は、そんな方のために、ニュージーランドでの妊娠・出産に関して説明します。

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妊娠したら

2019年現在、ニュージーランドでは妊婦さんの管理は、ほとんど助産婦によってされています。
GPに受診するのは、最初に妊娠がわかった時、または妊娠中に医学的な問題があった時ぐらいですね。

ということで、まず妊娠がわかったら、GPへ行きましょう。
(または、すでに担当になってもらいたい助産婦さんがいる場合は、直接助産婦さんに連絡しても大丈夫です。)
妊娠12週までに妊娠についてGPを受診した場合、最初の1回のGPクリニック受診は普通無料です。

この1回目のGP受診時に

  1. 妊娠と最終月経日の確認(患者さんが自分で市販の妊娠検査薬で調べていない場合など)
  2. 妊娠に関する一般的説明
  3. 飲酒やタバコ、胎児に影響を与えうる薬の内服していないかチェック
  4. 葉酸とヨウ素サプルメントの処方
  5. 血液検査のオーダー(血液型、B型肝炎やHIVの検査、風疹抗体の有無など)
  6. 助産婦をどうやって見つけるかの説明

などをします。

もしも最終月経開始日を覚えていないとか、生理が非常に不順な場合は、Dating scanという胎児の週齢を確定する超音波検査をオーダーします。
以前はこれは無料でしたが、現在は$20程度の費用がかかるところもあります。(費用も地域によって異なります。)

費用

公費の場合

ニュージーランドでは、妊娠している女性がニュージーランド国籍、永住権、2年以上のワークビザを持っていれば、妊娠中の管理、出産にかかる費用は基本的に無料です。(後述する超音波検査や薬代を除きます。)

もしも、女性が国籍、永住権、ビザで、前述の条件を満たさなくても、お腹の子供の父親がニュージーランド国籍、または永住権を持っていれば、妊娠、出産にかかる費用は同じように無料になるはずです。
(無料になるかどうか疑問の方は、直接GPクリニックなどに確認してくださいね。)
 
実は2002年までは、外国人が来てニュージーランドで出産しても、その出産費用もニュージーランド政府が払っていたのです。
2003年にこのシステムは変わり、外国人の出産は自費で払う事になりました。(ニュージーランドで生まれた赤ちゃんは「ニュージーランド国民」となるので、赤ちゃんの医療費は無料です。)

私費の場合

オークランドの南にあるCouties Manukau District Health Boardの資料で、私費の際にいくら出産費用がかかるか書いてあったものがあったので、引用しておきます。
(この記事を読まれる時点では、費用が変わっているかもしれないので、直接病院などに確認してください。)

  • Vaginal Birth: $5,686.29 including 15% GST(経腟分娩の時)=50万円弱 (NZ$1=74円として)
  • Caesarean Section: $10,182.33 including 15% GST (帝王切開の時)=87万円弱

妊娠中の検査など

超音波

1. Dating scan  
これは妊婦さんが、最終月経日を覚えていないとか、中絶を希望しているという場合に行います。
だいたい7−11週ぐらいに行います。(ちなみに週数は、最終月経の始まった日から数えます。)
あまり早く超音波検査をすると、胎児が小さすぎて心拍をはっきりと認められないことがあるので、7週までは待ちましょう。
 
2. Nuchal Translucency scan (胎児頚部浮腫をチェックする超音波テスト)
これはダウン症候群などの染色体異常のスクリーニングテストです。
このテストは血液検査とペアになってオーダーされ、血液検査とこの超音波検査の結果を合わせて、ダウン症候群やその他の幾つかの染色体異常の可能性の高さが計算されます。
この検査はすべての妊婦さんが受けるわけではありません。
まず助産婦と話をして、妊婦さんがこの検査を受けたいかという意思をはっきりさせて、希望する人だけに行われます。
最適な時期は12週前後です。
詳しくは以下のウェブサイト
Antenatal Screening for Down syndrome and Other Conditions
https://www.nsu.govt.nz/pregnancy-newborn-screening/antenatal-screening-down-syndrome-and-other-conditions
を参照してください。
 
3. Anatomy scan
これは19−20週に行われる、胎児の成長や各臓器をチェックする超音波検査です。
この頃になると胎児の性別もわかりやすいので、もしも妊婦さんが希望すれば、検査時に胎児の性別を訊けば教えてもらえます。
 
4. Growth scan
もしも胎児の成長に問題があったり、双子であったりした場合は、この後もGrowth scanと呼ばれる、超音波検査がオーダーされます。

特に問題がなければ、通常のケースでは、anatomy scanの後は超音波検査はありません。
ただ、分娩近くになって、胎児の位置をチェックするとかいうことはあるかもしれません。

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血液検査、尿検査、血圧、体重チェック

妊娠中は糖尿病を発症する危険があるため、24−28週にそれをチェックする血液検査をします。
これはoral glucose challenge test (OGCT)と言って、砂糖水を飲み、1時間後に血糖値の検査をするというものです。もしもこれが異常の場合は、さらに次の段階のテストにいきます。
またpreeclampia (子癇前症)やeclampsia(子癇)が起こるのを早期発見すべく、尿タンパク、血圧の検査など助産婦が定期的に行います。

妊娠中に問題があった場合は

妊娠中に新しく問題が起こった場合(妊婦の血圧が上がったとか、血糖値が非常に高くなったとか、胎児の成長に問題があるなど)は、助産婦さんから病院の産婦人科医や、糖尿病のクリニックに紹介され、病院の医者と助産婦が、妊婦さんの管理にあたります。

 

以前の妊娠、出産に問題があったり、妊婦さんに妊娠・出産に影響する既往歴がある場合などは、通常は最初から病院の医師が関与します。

 

妊娠と予防接種

予防接種を受けることによって、妊婦さん自身と生まれてくる赤ちゃんを守ることができます。
予防接種の種類によっては、妊娠する前に受けるべきもの(妊娠中の接種が勧められていないもの)と妊娠中に受けるべきものがあります。

妊娠する前に受けておくべき予防接種

これらは、妊娠中には受けられないので、免疫がない方は、妊娠を予定する前に予防接種を受けておいてください。

  1. 風疹 Rubella
  2. 水ぼうそう Varicella

妊娠中に受けるべき予防接種

1. 百日ぜき Pertussis (whooping cough)
妊娠28週から38週にワクチンを受けることが推奨されています。毎回妊娠時に受けることが勧められており、妊婦さんには無料です。
 
2. インフルエンザ
インフルエンザのワクチンは妊娠中の時期を問わず、いつでも受けられます。妊婦さんには無料です。

出産場所

出産場所は自分で選べます。
(最初から帝王切開を予定している人は、勿論病院となりますが。)
半数以上の妊婦さんは病院で出産すると思いますが、自宅での出産を選ぶ人もいます。
どちらを選んでも水中出産を選ぶ事もできます。
(自宅を予定していても、母体や胎児に問題が起これば、もちろん安全のために、病院でへ連れて行かれます。)

出産

いよいよ出産です!

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新生児に問題がなければ、出産後は赤ちゃんはすぐに母親の胸の上に置かれます。
帝王切開の出産でも同じです。
いわゆるKangaroo careとよばれます。

母子ともに問題なければ、赤ちゃんは、お母さんのベッドの横に小さなベッドに寝かされ、母と子供がいつでも触れ合えるようになっています。
日本のような新生児室は、医学的問題がない新生児にはありません。

退院後

出産後は助産婦が4−6週間くらい、母親と赤ちゃんの両方の世話をしてくれます。これは自宅へ来てくれるので、大変ありがたいです。
助産婦以外にも、もしも授乳に問題があれば、授乳の専門のプロフェッショナル (lactation consultant) に無料で相談し、指導を受けることもできます。

この後は、母親がどの機関に赤ちゃんの面倒を依頼するかということを決めます。
この機関は、赤ちゃんの身長、体重のチェックなどをします。
plunketと言う機関が主なもので、他にもマオリの機関もありますし、GPに診てもらう、と言うお母さん達もいます。

産休

簡単に産休について述べておくと、ニュージーランドでは6ヶ月以上、週10時間以上働いていれば、産休が取れます。
雇用主が有給をくれなくても(法的に有給の産休を与える義務は雇用者にないそうです)、出産予定日前の52週のうち26週以上働いていれば、政府が給与の代わりに産休手当を$564.38 /週まで払ってくれます。
現在は手当支給の期間は22週間分までですが、2020年の7月からは最高26週までになります。
働いている人はぜひ雇用主にチェックしてください。またこの政府のウェブサイトも参考にしてくださいね。
(私の時は誰も教えてくれなかったので、申し込みしませんでした。誰かがちょっと教えてくれたらよかったのになあと思います。)

まとめ

今回はかなり長くなってしまいました。
それでも、文字数の関係で、いろいろと省略した部分があります。
私のブログには、さらに詳しく説明してありますので、興味のある方は参照してください。

妊娠・中絶・出産について
 
不妊治療について
 

次回は、ニュージーランドでの予防接種について説明します。
特に、お子さんを日本から連れてきた方には役立つ情報がありますので、お楽しみに。

野田のりこ (Noriko Noda)
 
日本で外科医として勤務後、2002年にNZへ移住。
NZでも医師免許を取得。現在General Practice 専門医として働く。
音楽やクラフトが趣味。
 
ブログ
https://nzdoctor.net