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第3回 ニュージーランドと日本の医療経済システムの違いは、医療そのものに影響する!?

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日本とニュージーランドは医療経済のシステムは、かなり違うことをご存知ですか?
この違いが医療に大きく影響を与えていると私は考えますので、今回はこれについて説明します。

日本の医療経済システム

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日本では、多くの人は医療保険の掛け金を半強制的に払うことになっています。
これは国が目指している『国民皆保険』です。

つまり、患者さんは医療保険の掛け金を定期的に払い、掛け金を払っている人は、クリニックや病院にかかった時は、かかった医療費の3割など、あらかじめ決まった割合を医師側へ支払います。


クリニックや病院は、どのようなサービスを提供したかにより、その患者さんにかかった医療費を計算し、それを審査支払い機関に提出し、そこから患者さんが払った分を差し引いた医療費がクリニックや病院に支払われます。
(上の図は、かなり簡略してあるので、正確なシステムは厚生省のウェブサイトhttps://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iryouhoken/iryouhoken01/index.html を参照にしてください。)


つまり、クリニックや病院は、患者さんにしたサービスの全てに関して、収入を得ることができるわけです。
(最近は、病院に関しては「包括医療費支払い制度」というものができて、これを導入している病院は少し異なります。ここでは詳しいことは説明しません。)

ニュージーランドの医療経済システム

傷害以外での受診時

ニュージーランドでは、公共の医療については、医療保健の掛け金は払う必要はありません。
(もちろん誰かがお金を払わないと医療システムが成り立たないので、結局私達の税金から公共医療は賄われているわけです。)

患者さんがGPクリニックにかかると、患者さんは、自分のの年齢や社会経済的状況により異なった受診料を払います。
この受診料は、いろいろな要素を考慮して、そのクリニックが決定します。
(2019年9月現在、14歳未満はGPの受診料は通常無料です。)


GPクリニックには、政府からもお金が支払われます。
ただこれは、日本のように「提供したサービスの分支払われる」というものとは違います。

患者さんがクリニックに登録すると、クリニックには政府から、1年あたり決まった額のお金 (Capitation) が払われるのです。
その金額は、患者さんの年齢や社会経済的状況により異なります。


つまり、クリニックにとっては、

  1. 政府から払われるお金(Capitation)
  2. 患者さんから払われる受診料

が収入源となる訳です。

クリニックはこの収入を使って、GP、看護婦さん、事務などのクリニックのために働いている人に給与を払い、建物や機器のメンテナンスの費用をカバーします。

GPクリニックによって、受診料が違うのはなぜ

同じ街にあっても、すごく受診料が安いクリニックがありますよね。

「受診料が安いクリニックって、良心的なGP達がやってるのかな」
「高いクリニックは強欲な(笑)GP達なんだろうな」
なんて、思った方もいらっしゃるかもしれません。


実は、GPクリニックの決める患者さんの受診料というのは、クリニックが政府からどれだけキャピテーションのお金をもらうかによって、ほぼ決まってくるのです。

同じ年齢、社会経済的状況であっても、VLCA (very low cost access)といって政府から少し高いキャピテーションを払われているクリニックは、患者さんの受診料が低く抑えられています。(というか、VLCAは受診料を一定以上上げられないという決まりになっている。)


もちろん、お金持ちが多く住んでいる地域では、患者さんが受診料の支払いに問題がないので、一般的にクリニックは受診料を少し高めに設定しています。

ただあまり受診料を高くして登録する患者さんが少なくなれば、その分政府からもらえるキャピテーションのお金が減るので、周りのクリニックがどのような受診料を設けているかも見ながら、それぞれのクリニックは受診料を設定している訳です。

事故による傷害での受診時

事故による傷害については、旅行者など普通はニュージーランドの公立の医療補助が受けられない人でも、Accident Compensation Corporation (ACC)が医療費の補助をします。

ニュージーランドで収入がある人は、levyと呼ばれるお金を毎年ACCに払わないといけません。
これは、日本の健康保険の保険料のようなものですね。

ACCは、このお金を使って患者さんの治療費や損失した収入のカバーをします。


ACCは、ほとんどのGPクリニックに対しては診療費のすべてをカバーできる金額を払ってくれないので、クリニックは患者さんからも受診料を払ってもらうことになります。

(公立でない救急のクリニックでは、怪我による診察は全く無料なところもあります。
このようなクリニックには、ACCからクリニックへ診療費すべてをカバーする金額が払われています。)

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両国の違い - 日本は出来高払い式、ニュージーランドのGPはキャピテーション

簡単にまとめてしまえば、

日本は『出来高払い式』。
 つまり、開業医には、患者さんに提供した医療サービスに対する医療費が払われるというシステム。
これだと、クリニックは医療サービスを行えば行うほど、収入が増えます。

ニュージーランドのGPクリニックは『キャピテーション』。
つまり、クリニックに登録した患者さん一人一人に対して、政府からクリニックへ一定のお金が1年ごとに払われるシステム。
GPクリニックは、キャピテーションのお金と、患者さんからの毎回の受診料でビジネスをやりくりします。

このシステムでは、患者さんからの受診料は、実際に診察にかかるコスト全部をカバーしないために、GPが患者さんを診察すればするほど、クリニックの収入は減ります。

(ちなみにニュージーランドの公立病院は、すべて国民の税金でやりくりするシステムなので、患者さんは直接病院に医療費を払う必要はありません。)

システムの違いが医療に与える影響

このシステムの違いが、どのように医療に影響を与えると思いますか。

一度みなさんに考えていただけたら、と思います。

ご興味のある方は、是非私のブログ記事 「医療システムの違いは、医療そのものに影響を与えるか?」 https://nzdoctor.net/nz-medical-info/influence
を読んでみてください。

 

次回は、ニュージーランドの医療に携わる、医者や看護婦以外の人達や団体などをご紹介します。

質問があれば、お気軽に私のブログ https://nzdoctor.net からメッセージを送ってくださいね。
お待ちしています。

野田のりこ (Noriko Noda)
 
日本で外科医として勤務後、2002年にNZへ移住。
NZでも医師免許を取得。現在General Practice 専門医として働く。
音楽やクラフトが趣味。
 
ブログ
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