ニュージーランドのコーヒー協会には、私が本当に素晴らしいと確信しているバリスタが3人います。彼らがみんなチャンピオンだからすごいということではありません。実際3人ともそうした大会での優勝経験はありません。それでも私は彼らの技術・知識がここ4、5年の大会のどんなチャンピオンよりもずば抜けていると信じています。個人的には、彼らこそ、ニュージーランドのspecialty coffee (*1) のゴットファーザーだと思います。彼らが凄いと思う理由は、一杯のコーヒーがどれ位美味しいかを皆に示したいという情熱です。
まず、彼らは高品質で美味しい独自の豆を焙煎します。
次に、コーヒーについて彼らは本当によく知っています。というのも彼らは10年以上もコーヒー業界で経験を積んできています。
さらに、彼らはニュージーランドで私が知っているどのバリスタよりも、コーヒーを愛してやみません。こうした理由で、私は3人をとても尊敬し、将来彼らのようになれればと目標にしています。
怖いけど、すごい人。
一人めを、Mr. Bとしましょう。彼はオークランドシティでも指折りの忙しいカフェのオーナーで、そこで仕事をしています。このお店では毎日400杯以上ものコーヒーを、たった一人で、コーヒーマシンで淹れています。Mr.Bは、その素晴らしいスキルと彼の焙煎したコーヒーの美味しさから、エスプレッソバーを見事に成功させた人間です。
私は彼を5年知っていますが、最近になって彼のお店で働き始めました。それまでは、彼がそんなにタフだとは思っていませんでした。でも、彼は長い間この業界にいて、何をしなくてはいけないかを知っているため、私や他のスタッフに厳しいのだと分かりました。
私は彼と働くときは、彼を怒らせないよう十分注意しています。なぜなら、いったん怒り出すと、口調は攻撃的になるし、とても機嫌悪く見えるからです。
どんなに彼を怖いと思っても、私は彼と彼のすること全部が、本当に好きです。私は彼のことをバリスタとしても、自分のボスとしても尊敬しています。だから、私は彼を怒らせないように気をつけるし、彼の助けになることだったらなんでもしたいと思っています。
彼は、バリスタチャンピオンではありません。彼はいつも大会で同じ人に破れ、2位に終わっていました。でも、これは重要なことではなかったのです。なぜなら最終的に彼のエスプレッソバーは見事に成功し、彼の焙煎したコーヒーはオークランドの幾つものカフェに供給されていますし、彼のコーヒーに関する知識は本当にすごいものですから。
鉄の女
二人めは、Mrs. U。彼女は、並外れた才能を持ったバリスタであり、ロースターです。日本で彼女はいくつかの理由で、かなり有名なバリスタのひとりでした。彼女はこの業界1年めに出場したジャパンバリスタチャンピオンシップで5位入賞を果たし、翌年には2位となりました。これはまさに快挙です。
これを達成した後、彼女はニュージーランドに自分のお店を開く決心をするわけですが、これには本当に驚きました。最初に会った時、彼女は綺麗で、礼儀正しくて、私にコーヒーの話をたくさんしてくれました。そのうちに彼女のようにもなりたいなと思っていました。彼女と親しくなればなるほど、彼女には何であっても譲れない強い信念があるということがわかりました。私のバリスタの友人達が彼女に助言をしても、彼女は「ありがとう」と丁寧に言うだけで、彼女が実際にそれを正しいと思うまでは、全然耳を傾けていませんでした。
彼女のお店で働いた時、彼女はとても厳しい人だとわかりました。私が最初の従業員となったわけですが、恐らく彼女は自分のスタッフをどう扱って良いか全くわからなかったのだと思います。特に私のように経験のない若い女子の扱いを。彼女のお店で働くことが本当に楽しかったです。でも、彼女のお役に立ったかどうか…、私は何をしているのかよく分かっていなかったし、失敗することを怖がっていました。彼女は私がカフェでどう動いたらよいか知っていると思っていたため、実際とても混乱し、イライラしたのだと思います。けれども、残念ながらその頃の私は若く、“働く”ということの意味もあまり分かっていませんでした。
冗談を言うが、実はすごい
そしてもうひとり、この人のことは、“先生”と呼びたいと思います。ご想像通り、この人は私の先生です。先生は私の知るもっとも偉大なソフトブリュワーズ (*2) のひとりです。
先生は、自分の結果に満足するまで幾度となく試みを続ける人です。私は、彼は科学者だといつも思っています。コーヒーの味のなんたるかもわかっていなかった16歳の私に、フィルターコーヒーの美味しさを教えてくれたのが先生です。ある日先生が私に入れてくれたフィルターコーヒーは、今まで経験したことのない優しい繊細な味わいで、本当に大好きになりました。それ以降、私は先生からコーヒーについてたくさんのことを教わっています。エスプレッソからフィルターコーヒー、グラインダーの刃を変えることまで。私の尊敬する3人の中でも、先生とは一番よく話しをし、一番影響を受けた人です。先生はまったく他の二人とは違って、厳しいというより、面白い人です。
私はMr. Bのエスプレッソバーで先生と働いています。先生はそこのバリスタでありロースターでもあります。先生にはバリスタとして、またロースターとして仕事をしてきた長い経験があるため、コーヒーについても高い知識を持っています。
Mr. Bのエスプレッソバーで仕事をしている時、彼は私よりかなり年上なのに、私同様少し不器用なところがあります。Mr.Bは、先生のあまりのぎこちなさに、時々彼を叱ります。例えばコーヒーを作っている最中、台の上にコーヒーをこぼしたり、床にミルクをこぼしたりしたりするのです。
例えMr.Bのように早くコーヒーを淹れることができなくても、先生の技術はニュージーランドの他のどんなバリスタをも超えています。
私がニュージーランドブリュワーズカップに挑戦した時、先生は落ち込む私をいつも励ましてくれましたし、いつも私のすることに耳を傾け、トレーニングがうまく言っているか尋ねてくれました。本当に優しい人です。
私は、この3人のバリスタを本当に尊敬していて、私もそうありたいといつも思っています。私はコーヒーについてこんなにも知識のある人たちの側で仕事ができて、本当に幸せだと思います。
(*1) specialtyコーヒー: 豆のテースティングで100点満点中83点以上をマークする高品質なコーヒーのことです。さらにその豆の産地はどこか、どのようなファーマーがどのような環境で豆を育てたか(管理していたか)等々、コーヒーの品質や味にかかわる事がはっきり明示できる豆を、specialtyコーヒーといいます。
(*2) ソフトブリュワーズ: 基本的にはフィルターコーヒーのことを指します。「ソフト」とは、“プレッシャーをかけずに作るコーヒー”という意味です。エスプレッソマシーンは、90ぐらいのプレッシャーを使い、コーヒーを一杯作ります。ですが、フィルターコーヒー(ソフトブリュワーズ)は、お水のプレッシャー以外使いません。そのためソフトブリュワーズといいます。
COFFEE MANIA 2号
バリスター、ベイカー、女子大生
2001年家族でニュージーランドに移住
2010年家族でカフェをオープン
2014年カフェを改造し、Little Rascals Coffee shopに変更。
2015年NZ Brewers Cup 4位