【クライストチャーチ地震を経て、抜本的な見直しへ】
4月より、NZの損害保険業界が住宅保険を抜本的に見直します。これは2年前のクライストチャーチ地震を経た新たな決定で、業界挙げての動きとなります。今は損保関係のセミナーに行くと、この話で持ちきりです。「25年ぶりの大改革」とも言われているので、想像以上に大幅な見直しになることは、まずまちがいないでしょう。
【NZの基本方針はトータル・リプレイスメント】
住宅保険に加入する一番の目的は、何らかの原因で被害を受けた家を元の状態に戻すためです。火事で全焼したり、地震で全壊した家を再建するというのが最もわかりやす例です。半焼や半壊の修理でも相当の費用がかかります。NZの住宅保険の基本方針はトータル・リプレイスメントと呼ばれる完全な現状復帰、つまり壊れた家を再建も含めて、元の状態に戻すことでした。そのため「保険に入ってさえいれば、必ず家が元に戻る」という強い安心感がありました。
【官民一体型のユニークな補償】
トータル・リプレイスメントは世界的に見ても非常に珍しい制度です。通常は「いくらまで補償する」と補償上限額を設定し、その金額で再建できない場合は加入者が不足分を自己負担するのが一般的です。東日本大震災のときに「地震保険だけでは再建資金が確保できない」という話が出たのもこのためです。NZは国の自然災害補償機関EQC(地震委員会)と民間保険会社が共同で補償するというユニークな制度を採用することで、トータル・リプレイスメントを実現してきました。地震や台風など自然災害の場合は最初の10万ドルまでを国が補償し、残りを民間保険会社が補償し、二者でリスクを分け合うのです。(火災の場合は保険会社が補償)
【建て替え費用に応じた保険料へ】
見直しの詳細が発表されていないので、今の段階では具体的な話ができませんが、これまでとの一番の違いは、トータル・リプレイスメントを継続するために、「建て替え費用に応じた保険料設定になる」という点です。住宅保険に加入している人ならご存知のように、今までの保険は、住所、築年数、建物面積が考慮されるだけでした。私もお客様のお問い合わせを受け、この3点を聞けばすぐに見積もりを出すことができ、電話一本で加入手続きまでできました。これが建て替え費用に応じた保険料設定になると、どうなるのでしょう。
【同じ面積でも建て替え費用はばらばら】
現実的には同じ建物面積でも、家によって建て替え費用はばらばらです。最近のオークランドの家の平均的な建築費用は30万ドルと言われていますが、同じ大きさでも30年前、50年前に建てられた家ならデザインも使っている建材も違うので、再建費用も異なります。同時期に建てられた家でも、ある家は何度も手を入れて「新しいキッチンに5万ドルをかけた」という家もあれば、「建てたまま何もしていない」という家もあるでしょう。4月以降はこうした違いが保険料に反映されることになります。
【見込まれる大幅値上げ】
実際の建て替え費用に応じた保険料の設定が導入されると、「同じ家を再建するためにいくら必要か」という点から保険料が算出されるようになるので、立地、面積だけでなく、デザインの難易度や使っている建材、改装でいくらをかけたか、さらには取り壊しや廃棄物処理にいくら必要かなどの情報を詳しく考慮した上で、保険料が算出されるようになる見通しです。同じエリアにある同じ築年数の同じ面積の家でも、保険料に大きく開きが出るようになるでしょう。いずれにしても、これまでの保険料に比べると、大幅な値上げになることはほぼまちがいないと言えます。
【保険に入らないと国の補償もなし】
EQCの補償を受けるためには、住宅保険に入っていることが絶対の条件になることは今後も変わりありません。国の機関であっても、住宅保険に加入していないと補償の対象にならないのでご注意下さい。日本人は地震の恐さをよくわかっているので、「家があるけれど住宅保険に入っていない」という人はごくまれだと思いますが、中には「なにかあったら国が補償してくれる」と勘違いして未加入のままの人もいるので、お気をつけ下さい。住宅保険は火災や地震だけでなく、泥棒に入られてドアや窓を壊された場合の修理なども対象になります。
高橋靖宏【たかはし・やすひろ】
Financial Adviser (FSP68982)
アクセレレイト・コンサルティング社所属。海外進出企業の医療及びセキュリティ・リスク・マネジメントのスペシャリストとして、海外で長らくアシスタンス会社に勤務。NZで初の日本人公認ファイナンシャル・アドバイザーとして、生命保険、医療保険、損害保険など各種保険商品とキウイセーバーを日本語でご提供しています。
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