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フリーダイバー ウィリアム・トゥルブリッジ

フリーダイバー ウィリアム・トゥルブリッジ

Photo: © Alex St Jean

フリーダイビングは泳力、メンタル、適応力などさまざまな能力が必要とされるスポーツです。

フリーダイビングの第一人者としてこれまでに数々の世界記録を塗り替えてきたニュージーランド出身のウィリアム・トゥルブリッジ。2016年7月20日にCNF(コンスタントウエイト、フィンなし)で102m潜り、再び世界新記録を樹立しました。

過酷な種目CNFで世界記録を達成

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Photo: © Daan Verhoeven

 海の中にポッカリと空いた巨大な穴「ブルーホール」。日本の渡名喜島やグァム、ベリーズなど世界各地に存在しますが、その中で最も深いといわれているのがバハマのデーンズ・ブルーホールです。現在、フリーダイビングの国際大会の開催地として知られているこのデーンズ・ブルーホールに世界で初めて潜ったフリーダイバーは、ニュージーランド出身のウィリアム・トゥルブリッジ。2010年12月に前人未到のCNF100mに到達するなど、これまでに数々の輝かしい記録を打ち立ててきた彼が、2016年7月20日、デーンズ・ブルーホールでCNF102mを達成し、再び自身の持つ世界記録を塗り替えました。

 CNFとはフリーダイビングの種目の一つで、コンスタントウエイト、フィンなしの略。フリーダイビングの場合、フィンを使ってスピードをアップしたり、浮上する際にウエイトを捨てて水面に到達しやすくする種目もありますが、CNFは途中でウエイトを変えることができず、アシストもなく、ガイドロープをつたうこともできず、自分の泳力のみでどこまで深く潜れるかに挑戦する過酷な競技です。ウィリアムも今回102mから浮上する際、一瞬“助けを求めないとダメかもしれない”と感じたと話します。

「今回の挑戦は厳しく、特にメンタル面での強さが要求されました。102mの深さまで潜るということは、帰りも同じく102m泳がなくてはならないでしょう。半分くらいまで浮上した時、低酸素症になりかけている感覚に襲われ、このままだと意識を失うかもしれないと焦りました。しかしここで落ち着かなくてはとリラックしながら泳ぐことを心がけ、水面に近づくにつれ、“よし、できる!”と確信したのです」

 彼の偉業はニュージーランドにも中継され、朝の情報番組『ブレックファスト』で全国に放映されました。

「新記録を達成できて今はホッとした気持ちでいっぱいです。この記録を出すのに2年以上も費やしましたから、ようやくやり遂げて一つの夢がかないました」

物心つく前から船上で育った水の申し子

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Photo: © Daan Verhoeven

 世界トップのフリーダイバーであるウィリアムは、1980年にイギリスで誕生しました。生後18ヶ月の時、両親と兄のサムとともにヨットで世界を旅する暮らしが始まり、その後、家族とともにニュージーランドに落ち着くまで、約4年間を海の上で過ごしたそうです。1歳半から水泳を始め、8歳の頃にはサムと一緒に水深15mまで潜り、底にある石をどちらが早く拾ってくるかという遊びをしていたほど水の申し子だったウィリアム。しかし本格的にフリーダイビングに取り組むようになったのは、大学を卒業した2003年のことでした。

「大学では生理学と遺伝子学を学び、卒業後にしばらくカリブ海に滞在していたのですが、ここで毎日のようにダイビングをしてその魅力に改めてハマりました。僕はそれまで水泳もダイビングも得意だと思っていたけど、やはり自己流で粗削りでしたよね。そこでイタリアへ行き、伝説のフリーダイバーであるウンベルト・ペリッツァーリのもとで訓練を積みました」

 その1年後にはウンベルトが設立した有名なフリーダインビングスクール「イタリアン・アプネア・アカデミー」でイタリア人以外では初めてのインストラクターとなり、同アカデミーが国際スクールを立ち上げる際にはテキストの英訳などにも協力します。そして2007年4月、CNFで81m潜り、当時の世界記録を樹立しました。

「フリーダイビングにはいろいろな種目がありますが、僕はCNFやフリーイマージョン(コンスタントウエイト、フィンなしでガイドロープをつたって潜る競技)、特にCNFが好きなんです。道具を一切使わないで自分の体のみで潜るので、人間の持つ可能性や限界にチャレンジしている感じがいい。深海は音もなく、重さもなく、色もなく、真っ暗な闇が広がり、そこにいると“完璧に平和な世界”だと感じます」

 また、世界タイトル保持者としてフリーダイビング界を牽引する存在となった今、自身の強さの秘密を尋ねるとこんな答えが返ってきました。

「僕は何かが特別に優れているというわけではないのです。フリーダイビングを成功させるには高炭素と低酸素に耐えうる力だったり、泳力、適応能力、メンタルコントロールなどさまざまな要素があって、そのどれが欠けても上手くいきません。おそらく僕はそのバランスをとることが得意なのではないかと感じています。どれかが突出してすごいのではなく、平均的にどれも一定以上のレベルに達しているという感じでしょうか」

ニュージーランド固有のイルカの保護活動に尽力

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Photo: © TVNZ

 フリーダイバーとして活躍する傍ら、ウィリアムは「トゥルーブルー・ファンデーション」というチャリティ団体を主宰し、海の環境を守る運動も精力的に行っています。

「常に海とつながりを持って生きてきた人間の責務として、海の環境がいかに脅かされているかを広く伝え、美しい海を次世代へ残す手伝いをしなくてはと考えています。海が汚れたら人間は生きていけません。もっと多くの人々がその重要性に気付き、危機感を持つ必要があります」

 団体の活動の一環として、ニュージーランド固有のイルカ、ヘクターズ・ドルフィンとマウイ・ドルフィンの保護にも力を入れています。

「ヘクターズとマウイはどちらもニュージーランドの沿岸、水深100m以下の浅いところにしか生息しません。ヘクターズは7000頭以下、マウイに至っては50頭以下しか確認されておらず、絶滅の危機に瀕しています。彼らが住む海の環境を整え、数を増やすことは急務といえます」

 今後は2017年のヴァーティカルブルー(世界中のトップダイバーが集結する国際大会)とAIDAワールドチャンピオンシップ(フリーダイビング協会主催の世界大会)まで大きな大会は控えていないため、トレーニングは継続しますが、しばらくは主にマウイ・ドルフィンの保護活動に比重を置く予定だそうです。海を愛するトップダイバー、ウィリアム。フリーダイバーとしての彼の進化はもちろん、環境問題への取り組みにも要注目です。

William Trubridge

うぃりあむ・とぅるぶりっじ●1980年5月24日、イギリス生まれ。イギリスとニュージーランドの国籍を持つ。

生後18カ月から両親のヨットで世界を放浪する海上生活をスタート。カリブ海や太平洋を巡り、約4年後にニュージーランドへ定住する。水泳は1歳半から始め、8歳の頃には素潜りで15m潜れるようになる。

大学で生理学と遺伝子学を学んだ後、本格的にフリーダイビングに目覚め、伝説のイタリア人フリーダイバー、ウンベルト・ペリッツァーリに師事。イタリアン・アピネア・アカデミーのインストラクターとなり、2005年に世界最深といわれるバハマのデーンズ・ブルーホールにフリーダイバーとして初めて潜る。2007年4月にCNF(コンスタントウエイト、フィンなし)種目で81mを達成し、世界記録を樹立して以降、さまざまな種目で自身の持つ記録を塗り替えてきた。最近の世界記録更新は2016年5月2日のフリーイマージョン124m(4分34秒)と同年7月20日のCNF102m(4分13秒)。バハマ在住。

公式サイト:
http://williamtrubridge.com/