地球にも人にも優しい絶品スイーツで、人々を笑顔にするのが目標です。
健康や環境に対する意識の高まりから、近頃日本でも増えつつあるヴィーガンやグルテンフリーの食事スタイル。その先進国ともいえるニュージーランドで、日本人女性パティシエの石橋恵里さんがヴィーガンケーキショップ「ラ・プティ・ノア」を立ち上げました。「ヴィーガンは味気ない」というイメージを覆す、ヘルシーでおいしいスイーツを考案する恵里さんにお話を伺いました。
子育てに適した環境を求めてニュージーランドへ移住
オークランドのノースショアにある石橋恵里さんの自宅に置かれたかわいらしいトレーラー。これは顧客の要望に応じて週末のマーケットからパーティ会場、ウェディングまであらゆるところへ出かけていく、フットワークの軽い移動式ケーキショップ「ラ・プティ・ノア」です。
フランス語で「小さなクルミ」という意味を持つ「ラ・プティ・ノア」の大きな特徴は、ベジタリアンやヴィーガン(動物性のものを一切採らないこと)に特化していること。ヴィーガン主義者はもちろん、アレルギーを持つ人や病気などの理由で食事制限が必要な方でもおいしく食べることのできるスイーツを提供しています。
オーナーパティシエの石橋恵里さんは島根県出身。専門学校でお菓子作りを学び、卒業後は神戸でオリエンタルホテルのケーキ部門や市内の洋菓子店で働いていました。ニュージーランド移住を考えるようになったのは結婚して息子さんが生まれてから。子育てに適した環境を求めての決断だったそうです。
「昔から海外で暮らすことに興味がありましたし、私自身、枠にはめられるのが好きではなかったこともあり、息子には規制の多い日本の学校で窮屈な思いをさせたくなかったのです。ニュージーランドは子供たちが裸足で走り回ってのびのび育っているし、個を伸ばす教育方針が気に入って家族でオークランドへ移り住みました」
アレルギーのある子供を持つ母親の助けになりたい
2002年、オークランドで新生活をスタートさせた恵里さん一家。日本でも料理人だったご主人はレストランで働き、恵里さんも個人からの注文を受けてケーキ作りの仕事を続けました。また、この頃、マクロビを実践する人に出会ったことでヴィーガンに目を向けるようになったといいます。
「ニュージーランドは日本よりもベジタリアンやヴィーガンが一般的ですよね。私は息子が生まれてから世界の環境や飢餓の問題を考え始め、自分にできることとして間接的ですがお肉を食べるのを控えるようになりました。そしてニュージーランドでマクロビを知って食生活をさらに見直し、徐々に動物性の食べ物を摂取しなくなったのです」
恵里さんはこうしてヴィーガンとなり、およそ8年が経過。ヴィーガンになる前よりも体調がグッと改善されたことを実感しているそうです。
「鼻炎や冷え性が治りましたし、よほど根を詰めて働かない限り、肩凝りや腰痛に悩まされることもなくなりました。ヴィーガンの食生活が自分にとって心地いいので、長く続いているのだと思います」
ヴィーガンの知識を深めた恵里さんは、ヴィーガン向け料理教室を主宰。約4年間クラスを行い、2年前に「ラ・プティ・ノア」をオープンしました。
「息子が生後数カ月でアトピー性皮膚炎を発症し、食べられるものも限られて症状がよくなったり悪くなったりの繰り返しでした。どうしたらいいのかわからず、かわいそうでしたし、申し訳ない気持ちでいっぱいでした。ラ・プティ・ノアを立ち上げたのは、私と同様にアレルギーのある子供を持つ母親の力になりたかったから。子供が安心しておいしいケーキを食べて笑顔を見せると母親もハッピーになりますよね。微力ながらそんなお手伝いをしたいと思ったのです」
誰もがおいしく食べられるスイーツを作りたい
現在、「ラ・プティ・ノア」では予約制によるケーキとプリンのオーダー制作のほか、日本料理レストランの「じゃんけん」に抹茶やチョコレートケーキとゴマプリンを卸したり、週末のマーケットに出店しています。常に新しいものを作りたいと試作を重ね、今後は焼き菓子にも力を入れていきたいとか。
「今年の夏、ウェディングケーキのオーダーをいただいた際、参列者に配るヴィーガンマカロンも作ったんです。マカロンをビーガンヴィーガンで作るのって難しいんですよ。何度もトライしてようやく完成しました。おそらくニュージーランド初のヴィーガンマカロンだと思います。日本でパティシエをしていた時は卵や牛乳を使ったレシピもたくさん持っていたので、それをいかにヴィーガンの材料に置き換えて味を落とさずに作るか、毎日チャレンジしています」
スイーツの材料はオーガニック食材の卸売り企業から仕入れているため、ほぼオーガニック。無漂白小麦粉や良質の植物油、豆乳、ココナッツミルク、グラウンシュガー、アガベシロップといった体に優しい食材のみを使用しています。
「お客様の体調に合わせてケーキを作るので、細かなことでも気軽に相談してほしい。また、そうした食事制限がある方だけではなく、どなたにもおいしく食べていただけるケーキを目指しています」
一番人気だというチョコレートケーキにはカカオ成分の高いヴィーガンチョコを使用。牛乳も白砂糖も使っていませんがビターでまろやかな味わいで、知らずに食べたらヴィーガンケーキとは気づかないおいしさです。「ヴィーガン」と気負わずに楽しめる恵里さんのスイーツ。これからも上質な新作が続々登場するとのことで、期待が高まります。
石橋恵里
いしばし・えり●島根県松江市出身。
お菓子の専門学校を卒業後、神戸オリエンタルホテルのケーキ部門や街の洋菓子店で約10年間働く。
子供が生まれたのをきっかけに子育てに適した環境を考えるようになり、2002年、家族でニュージーランドへ移住。2008年頃よりヴィーガンに興味を持つようになり、食生活を一新。ヴィーガン向け料理教室を4年ほど主宰した後、ヴィーガンケーキショップ「ラ・プティ・ノア」を設立。個人からのオーダーのほか、カフェやレストランにも提供。週末のマーケットにも出店している。ケーキのオーダーは2~3日前まででOK。値段の目安は15cmホールでNZ$40程度。
ラ・プティ・ノア
http://lanoixvegancake.com