
NZ快楽旅行主義 vol.6
キングストン発、蒸気機関車の旅
南島のキングストンとフェアライトを結ぶ14キロの区間を、
1日3往復する観光用蒸気機関車で、レトロでコンパクトな列車の旅を体験してみませんか?
(Quarter 2002年春号より)
Text / Photos by Chiharu Kitai

クィーンズタウンから車で約40分、ワカティプ湖畔最南端にある街、キングストンに発着する蒸気機関車、キングストン・フライヤー号。青い空にくっきりとりょう線を描くリマーカブルズ連峰や、その雪解け水が注ぎ込むワカティプ湖をバックに、力強く走る姿が印象的だ。名前の由来は、馬が最も一般的な交通手段だった19世紀後半に、キングストン・フライヤー号は時速80キロと、“飛ぶように”速い乗り物だったから。この機関車は1878年7月に、南部の街ゴアとキングストンを結ぶ輸送交通機関として誕生したが、自動車道路の開通により、1950年代半ばにその役割を終えた。

車窓からの風景を楽しみながら、ティーブレイク。車体が揺れるので、お茶をこぼさないよう、気を付けて
キングストン・フライヤー号は機関車、喫茶用の各車両、一等客車、二等客車の編成になっており、乗客数により客車の車両数が増減する。それぞれの車輌には異なる歴史的価値があり、先頭部分は1925年にクライストチャーチ近郊のアディントンで作られたAB778型と、1927年にダニーデン近郊のヒルサイドで組み立てられ、英国王室の来賓用に使用されたAB795型を使用している。
喫茶用の車両に一歩入ると、革張りの座席、カウリなどを使用した木製のテーブル、ガスランプなどの内装に目を奪われる。この車輌は1919年に大臣用の特別車輌として建造され、内閣閣僚が使用していたもので、以前はシャワー、キッチン、衣装ダンスなどを備えていたが、現在では車輌の中央に飲み物を提供するカウンターと、乗客用のいすとテーブルがあるのみ。しかし壁には当時の写真や新聞記事などが展示されており、ちょっとした博物館のようだ。
客車のうち、一等車には5室の「バードケージ」と呼ばれる個室があり、向かい合わせになった黒革張りのいすと、窓側に木製の折り畳み式テーブルがある。このバードケージは、1901年に後の英国国王ジョージ5世と女王が使用したこともあるそうだ。二等車には赤い革張りの2人がけのいすが整然と並び、最後尾に洗面所がある。

フェアライトでの停車時間に、キングストン・フライヤー号を写真に収める乗客は少なくない
いざ出発進行。機関車が線路の上をゆっくりと滑り出すと、車窓には遠く連なる山々、羊が牧草を食む平原が広がり、ガタゴトと不規則な揺れ、周囲の景色に吸い込まれるように鳴り響く汽笛の音などを体感できる。少しすると、車掌さんが検札に訪れ、はさみで切符をパチン。現代から20世紀初頭にタイムスリップしたかのようなのどかな旅に、静かな感動がわき起こる。羊が線路で立ち往生して停車すること、1、2回。時には運転手が汽車から降りて、追い払うこともあるらしい。終点に近付くと、線路と並行する道路を走る車の中から機関車に手を振る人や、車を道端に止めてカメラを構える人の姿が目に入る。
キングストンを離れて30分でフェアライトの駅に到着。汽車が停止するとすぐに機関車が切り離され、近くをぐるりと1周した後、来た時とは反対側の車輌に連結されるのが見もの。かつてフェアライトには宿場町としてホテルなどの施設があったが、現在は駅舎があるのみ。しかし、近日完成予定で観光客用の土産店などが建ち始め、再びにぎわいを取り戻すことになりそうだ。乗客が機関車から降りて写真撮影や歓談をしている間も、黙々と炉に石炭をくべる運転手の姿は印象的だった。フェアライトを出発した汽車は、もと来た線路をたどり、キングストンに帰着。昔ながらの旅のスタイルを味わいながら、ゆっくりとした時の流れを感じることができ、つかの間、毎日の慌ただしい生活から解放されたひとときだった。
Kingston Flyer
キングストン・フライヤー号
Ph:03-248-8848、0800-435-937
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