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ニュージーランドの自然・文化

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Interview vol.13

カカポ基金代表
内田 泉さん
カカポとの出合いをきっかけに自然破壊の現状に目を向けて

(Quarter 2003年冬号より)

ぬいぐるみのような不思議な生き物との出合い

 東京の編集プロダクションに勤務していたころ、世界的な動物写真家である岩合光昭さんと、ある国際情報誌の連載企画で一緒にお仕事をさせていただいたことがありました。彼が世界中で撮影してきた素晴らしい動物の写真を一つずつ紹介していくコーナーで、私はその記事を担当していました。ある日、掲載用のネガフィルムをチェックしていたとき、1枚の面白い写真が目に留まりました。それは、木の幹と枝の間にはさまるようにしてカメラのレンズをのぞき込んでいる、コロコロと太った緑色の鳥でした。一見ぬいぐるみのような、初めて目にするその不思議な生き物に興味を引かれ、岩合さんに詳しい話を聞いたのがカカポ(和名:フクロオウム)との運命的ともいえる出合いでした。

 話を聞いているうちに、カカポのたどってきた歴史は、地球の歴史そのものだと感じるようになりました。その当時、ニュージーランド国内で生存が確認されていたカカポは約40羽。まぎれもなく、絶滅一歩手前の状況でした。天敵の存在しない特殊な環境下で飛ぶことを忘れていった鳥たちが、人間の出現による生態系の劇的な変化に対応できず、絶滅への道をひた走っている――当時カカポが瀕していた危機的な状態は、長い歴史の中で進化してきた動植物が、人間によって狂わされた生態系の中で住みかを失い、わずか千年という短い間にこの世から消えてしまう、という悲しい現実を体現していました。ニュージーランドは一見緑豊かな国ですが、もともとの生態系の多くは破壊され、世界的にも貴重な動植物が危険にさらされています。同じ島国の日本に住む私たちにも、何かできることがあるんじゃないか、なぜか親近感を覚えるチャーミングなこの鳥をきっかけとして、より多くの人たちに日本国内で、そして世界各国で起こっている自然破壊の現状について関心を持ってもらいたい――そんな思いで1990年に設立したのが、「カカポ基金」です。

 草の根運動としてスタートした基金活動も、たくさんの人たちに支えられて今年で13年目を迎えました。昨年3月には、カカポの繁殖のために日夜懸命な努力を続けている政府主導の「カカポ・リカバリーグループ」に、1万ドルを寄付しました。この貴重なお金は昨年7月、コッドフィッシュ(Codfish)島、モード(Maud)島に続きDOC(環境保護局)の保護区に選ばれたカカポ第3の住みか、チョーキー(Chalky)島の保護体制強化のために有効に使われる予定です。

“夜のオウム”カカポを取り巻く一大プロジェクト

 カカポは世界で最も大きなオウムで、体長約60センチ、体重約3キロと、ちょうど生まれたばかりの赤ちゃんほどの大きさがあります。植物の根や実、葉っぱやつぼみを食べ、体からはフリージアのような甘い匂いがするといわれています。普段、オスとメスは広い縄張りの中で別々に暮らし、両者が出合うのは数年に一度の繁殖期間のみ。オスはのどの辺りに袋があり、そこを膨らませて空気を送り込み、「ボン、ボン」という低音を発してメスの気を引く「ブーミング(Booming)」と呼ばれる一風変わった求愛行動をします。オスは繁殖期になると山の高いところに集まって来て、地面にくぼみを作って座り込み、ブーミングを繰り返します。穴の壁に反響した音は、7キロも離れた場所にいるメスにまで届くといわれています。メスは気に入ったオスを選んで交尾を行った後、1日ぐらいでまた自分の縄張りへと戻ってしまいます。カカポは本来、単独行動を主とする孤独な鳥。母鳥は自分だけで巣作りをし、卵を産んでひなを育てます。一方、オスはひたすらブーミングを続け、次の相手がやってくるのを待つのです。

 カカポはケア、カカ、カカリキなどの同じく緑色の羽毛を持つオウムのグループとともに、はるか昔、オーストラリア大陸から飛んできたといわれています。マオリ語で「カカ」はオウムを、「ポ」は夜を意味します。つまり「夜のオウム」というわけです。マオリやヨーロッパ人とともに、天敵となるさまざまな小動物たちがこの地にやって来た後、カカポを取り巻く環境は激変しました。その数はまたたくまに減り、絶滅の危機に陥りました。1970年代、本土最後の砦となったフィヨルドランドに野生生物保護局(DOCの前身)が入り、本格的な保護活動がスタートしました。数年にわたる調査で、フィヨルドランドに生息するカカポはすべてオスで、メスは一羽も存在しないという事実が判明しました。つまりオスたちは、どこにもいないメスに対してブーミングをするという空しい行為を、何年にもわたって続けていたのです。

 もうだめかと誰もがあきらめかけたとき、ひとすじの希望の光が差し込みました。南島南端のブラフからフェリーで1時間ほど南下したところにあるスチュワート島に、4羽のメスが生存していることが分かったのです。1989年、国を挙げての一大プロジェクト「カカポ・リカバリープログラム」が創設されました。DOCは確認されたすべてのカカポを天敵の存在しない無人島に移し、精力的な保護活動をスタートさせたのです。

30年にわたる地道な活動が実を結んだ飛躍の年

 昨年のコッドフィッシュ島は、大忙しの1年でした。何と、1年で24羽もの新しい生命が巣立ったのです。これはまさに驚異的な数字。1989年のスタート以来、昨年までの13年間で増えた22羽という数をたった1シーズンで越えてしまったのですから。

 すでに述べた通り、カカポはメスだけでひなを育てる習性があり、しかも夜行性。そのため、母鳥がえさを探しに出掛けてしまう夜間に、ひなだけが巣に残されるという状況が発生します。近くに十分な量の食料がないと、母鳥は何時間も巣を空けることになり、ひなの体が冷え切ってしまうこともあるのです。この「母一人の子育て」を影でサポートするのが、プロジェクトに従事するレンジャーと、世界中から集まるボランティアです。

 カカポ絶滅回復計画が大きな転機を迎えた昨年、私も世界中から集まった100人のボランティア仲間と一緒に、コッドフィッシュ島での活動に参加しました。今回の私の仕事は、母鳥が不在の間、巣にいるひなを守る「ネストマインダー」と呼ばれる業務でした。レンジャーはメスが卵を産んだことが分かった時点で、そこから50メートルほど離れた場所にテントを張り、さらに巣の入り口に小型カメラを仕掛けてテントの中までケーブルを引き込み、24時間のモニター監視体制を作ります。

 母鳥が巣から出ると、センサーが反応して「ピンポン」というドアチャイムのような音がテントの中に鳴り響きます。音が鳴ったら、巣の中がひなだけになっていることをモニターで確認し、われわれボランティアが巣へと向かうのです。ひなの体が冷え切ってしまわないよう、手製の小さな電気毛布を掛け、母鳥が帰ってくるまで巣のそばで待ちます。雨が降る寒い夜に、こうして何時間も母鳥の帰りを待つこともあるんですよ。

 すべての成鳥にはそれぞれ無線機が付けられています。ネストマインダーはその無線機に反応するアンテナを持っています。鳥たちの生活を邪魔しない、というのが原則なので、母鳥が巣に近づいて来ていることが分かったら、素早くひなに掛けていた電気毛布を外し、その場を立ち去らなければなりません。でも、時には間に合わないこともあるんです。あるボランティア仲間は母鳥が帰ってきたことに気付くのが遅れ、あわてて目立たないよう地面に寝転がったら、お腹の上を母鳥がトコトコと歩いて巣に帰っていった、という笑えるエピソードもありました。カカポって意外と大らかな性格の鳥なんですね(笑)。

自然保護活動は国の存亡に関わる重大な事業

 国内に残る希少な動植物たちを保護しようとするこの国の姿勢には、目を見張るものがあります。日本は1億2,000万人の国民に対して、環境省に務める役員の数は1,000人以下。しかも彼らは事務職で、現場に出るわけではありません。一方、ニュージーランドは人口400万人に対して、DOCのスタッフだけで1,200人。しかもその多くが、自ら山や森に出て保護活動を行うプロのレンジャーなんです。法整備の充実度や業務に注ぎ込む費用を国の規模と比較して考えると、この国は自らの自然を守ることに対する意気込みが、日本とは明らかに違うのだと気付かされます。

 ニュージーランドは、土地とそこに住む動植物のすべてをひとまとめにしてDOCが管理しています。この点でも、国土は国土省が、森は林野省が、動物は環境省がというように、管理する分野を省ごとに細かく分類している日本のシステムとは大きく異なります。空港などでの検疫チェックが非常に厳しいというのはよく知られていますが、これもこの国の自然保護に対する真剣な姿勢を端的に表す良例だと思います。例えば、ひところ深刻な問題となった狂牛病が、この国に広まったらどうなるでしょうか。まず農家や牧場がつぶれ、それ以上の蔓延を防ごうと道路が封鎖されます。道路の少ないこの国でメインの国道が封鎖されたら、今度は観光業が打撃を受けます。農業と観光業への打撃は、国自体の存亡にも関わる重大事。この国では自国の自然を守ることがすなわち、国民の生活を守ることなのです。

 ニュージーランドが鳥たちの楽園だったころ、大地のほとんどは緑豊かな森で覆われていました。いま目の前に広がるこの美しい自然も、実は人の手によって変えられた、本来の自然とはまた別の姿なのです。人間の無責任な行動が、長い年月を掛けて培われてきた自然に与えてしまった影響の大きさ、それを元の姿に戻すことは、時計の針を巻き戻すように簡単な作業ではないのだということ、そんな事実も、この国を訪れる旅行者の人たちにぜひ知ってもらいたいことの一つです。

 いまニュージーランドは、ものすごい労力とお金を掛けて、危機に瀕する動植物を守ろうとしています。でも本当は、こんな状況になってしまう前にできることがあるんです。現在、南太平洋諸国などを中心に、ニュージーランド人が過去の経験から得た貴重な知識やテクニックを駆使して、さまざまな地域での自然保護活動に協力しています。

 この国の実態や危機に瀕している動植物たちのこと、それを守ろうと懸命に働いているレンジャーたちのことを、日本の皆さんに伝えていけるようなメディア活動を今後も積極的に続けていきたいと思っています。さらには、カカポという魅力的な鳥との出合いをきっかけに、自然保護に興味を持ってくれた方たちとともに、何らかの形で日本の自然保護活動にも役立てればと願っています。

(2003年4月1日、ダニーデン、内田さんのご自宅にて)

カカポ基金

希少種カカポを絶滅の危機から救う一大プロジェクト、「カカポ・リカバリープログラム」に従事するカカポ・リカバリーグループの活動をサポートする非営利団体。年会費3,000円で、カカポの最新情報などを盛り込んだ会報が年2回届く。現在、内田さんと100人に上るボランティア・スタッフは、同プロジェクトの公式ウェブサイト(http://www.kakaporecovery.org.nz)の日本語版立ち上げを急ピッチで進めている。
●詳しいお問い合わせはメールにて
E-mail: PXI12631@nifty.com(日本語可)
Website: http://homepage2.nifty.com/kakapofund/


Izumi Uchida

うちだ・いずみ●1964年、東京都生まれ。慶応義塾大学卒業後、FMラジオ番組制作や出版編集業に携わったのち、1993年ニュージーランドへ移住。テレビ番組制作会社「ナチュラルヒストリー・ニュージーランド社」に制作ディレクター兼翻訳家として勤務し、自然環境をテーマにしたドキュメンタリー番組の制作に従事する。現在はフリーランスとして翻訳、通訳、執筆、番組コーディネートなど幅広いジャンルにわたって活躍中。著書に『カカポ 月のこども』(ハート出版)。

この記事は「Quarter 2003年冬号(Issue 13)」に掲載されたものです。記載されているデータ・情報は全て掲載時のものとなっております。予めご了承ください。

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