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Rugby World Cup 2003
オールブラックス王座奪還の夢叶わず
世界最強のチームを決定する、第5回ラグビー・ワールドカップ(以下、W杯)。優勝候補3強といわれたニュージーランド、イングランド、オーストラリアをはじめ、唯一のアジア参加国となった日本、そして初登場のグルジアなど、世界中で予選を勝ち抜いてきた20チームが、10月10日、オーストラリアのシドニーに集結した。
44日間にわたる激闘は、1億人ともいわれる世界のラグビーファンを興奮の渦に巻き込んだ。
(Quarter 2004夏号より)
Text by Sae Kajitani / Photo by Yoshinori Okada

主審がむごくも「ノーサイド(試合終了の意)」を告げたその瞬間、ニュージーランド中に落胆のどよめきが広がった。1987年の第1回大会を制して以来、常に優勝候補最有力と目されながら、すんでのところで王座を逃し続けてきたオールブラックス。しかし、さる7月に南半球3強チームの間で繰り広げられたトライ・ネーションズで優勝杯を手にし、さらにはオーストラリアとの直接対決、ブレスディロー・カップをもものにした彼らは、間違いなく勢いに乗っていた。今年こそタイトル奪回だ――夢の“ハットトリック”達成を願う国民の期待は、いやがおうにも高まっていたのである。
黒衣の集団が数万人の観衆の前に初めて姿を現したのは、開幕2日目の11日。イタリアを相手に迎えた予選リーグ第1戦は、まさに彼らの独壇場だった。キックオフ直後に得たペナルティーキックのチャンスを“闘将”カルロス・スペンサーが見事に決め、試合終了間際までトライの応酬が続く。8選手、合計11トライの猛攻で気づけば70―7という大差での快勝。そして続くカナダ戦、トンガ戦でも攻守ともに圧倒的な強さと速さをみせるフィフティーンの前に、相手チームはなすすべもなかった。オールブラックスは60点以上の差をつけて連勝し、残り1試合の結果を待たずして決勝トーナメント一番乗りを決めた。
順当に勝ち上がる優勝候補の足元を初めて揺さぶったのが、予選リーグ最終試合で対戦したウェールズだった。試合終了後のインタビューで、ジョン・ミッチェル監督に「(ゲームを通して)気が休まるときはなかった」といわしめたほど、わずか5カ月前、55―3の大差でオールブラックスに大敗したときと、この日のウェールズはすべてが違っていた。初戦でのアクシデント以来、久々のスタメン出場となったジョー・ロコソコが、キックオフからわずか1分32秒後という早業で鮮やかなトライを決め、試合はオールブラックス・リードの雰囲気でスタート。しかしその後、ウェールズの的確なパス回しと強固なディフェンスに、いまだかつてないほどの苦戦を強いられた。最終的には53―37のスコアで勝ちを決めたものの、後半5分にはリーグ戦始まって以来の逆転を許すなど、手に汗握る接近戦が最後まで続いた。
W杯の決勝トーナメントは「一度負けたらそこで終了」、容赦なしのノックアウト方式だ。準々決勝でオールブラックスとぶつかったのは、過去4大会を通じて最も相性の悪い南アフリカ。しかし、この日の流れは終始ニュージーランドにあった。前半10分、力強い走りで相手チームを振り切ったスペンサーに、日本への移籍が決定したレオン・マクドナルドが絶妙に合わせて初トライ。ウェールズ戦での教訓をもとに、全員がいま一度基本に立ち返り、ミスを最小限にとどめながら着実に点を重ねていく。タックルや守りの強さでは彼らに負けるとも劣らない南ア勢を、強固なディフェンスでノートライに封じ、29―9のスコアでW杯における南ア戦初勝利を遂げた。
ニュージーランド、オーストラリア、そしてイングランドにフランス。セミファイナルの顔ぶれに番狂わせはなかった。11月15日夜10時、決勝戦への望みをつなぐ世紀の一戦が始まった。奇しくも、宿敵ワラビーズを迎えての運命対決となった準決勝戦。負けるわけにはいかない――フィールドに立つ選ばれし勇者たち、そしてスタジアムを埋め尽くす8万人の観衆と同じように、国民の多くが勝利を信じて一瞬一瞬を見守った。
電光掲示板に浮かび上がる「0―0」の文字が、スタジアムを埋め尽くすファンたちの歓声とともに変わったのは、試合開始9分後。これまで芸術的なパス回しで数々の攻撃のチャンスをもたらしてきたスペンサーが、決定的なミスを犯した。しかしこのミスには伏線がある。実はそのわずか2分前、オールブラックスは絶好のトライを逃していたのだ。ランアウトの右オープン攻撃から、ボールをつかんだフルバックのマリリ・ムリアイナがコーナー右隅に滑り込む。瞬間、ワラビーズのトライゲッター、トゥリキが猛タックルを仕掛けた。ビデオ判定へともつれ込んだ結果は、痛恨のノックオン。
ワラビーズの守りはいつになく強固だ。早いパス回しで、相手が守備を固める前に攻撃を仕掛けるしかない。スペンサーがいつにも増して長いロングパスを放つ。しかしこのとき、絶好のポジションに位置していたワラビーズのセンター、モートロックが鮮やかなボール奪取に成功。70メートルの独走を決め、重要な初トライを奪った。
20―13。大方の予想、そしてキーウィたちの熱い願いに反し、勝利の女神は開催国オーストラリアにほほ笑んだ。連続優勝の夢を胸に秘めたワラビーズたちの、並々ならぬ気合と闘志。そこから生み出される鬼気迫るディフェンスに、オールブラックスは苦しめられ続けた。完敗だった。
1億人のラグビーファンを熱狂させた今回のW杯、頂点に立ったのはラグビー発祥の国、イングランドだ。前回の覇者、オーストラリアを相手に互角の戦いぶりをみせ、今大会初の延長戦までもつれ込むという死闘を展開。「100年に一人の逸材」とも噂される天才キッカー、ジョニー・ウィルキンソンがノーサイド直前に目の覚めるようなドロップゴールを決めた瞬間、北半球勢初の優勝が決まった。
初めて赤道を越えることとなった至高の銀杯、エリス・カップ。フィフティーンが再びこの輝きと対面するのは2007年のフランス大会だ。国際ラグビー連盟(IRB)が選出する「プレイヤー・オブ・ザ・イヤー」に、イングランドのウィルキンソンらとともにノミネートされたフランカー、リチャード・マッコウ(22歳)や、天才フルバック、クリスチャン・カレンの全盛期を思わせるマリリ・ムリアイナ(23歳)、今大会の最多トライスコア記録を樹立したダグ・ハウレット(24歳)など、期待の若手陣営もそろっている。今後4年間で、黒衣の集団はどれほどの飛躍と変貌を遂げるのか。ラグビーファンならずとも注目したいところだ。

開幕前から“期待の新星”として国民の注目を一身に集めたフィジー出身の新人エース、ジョー・ロコソコ(20歳)。瞬発力のあるしなやかなステップと類まれなるスピードが、今後のさらなる活躍を予感させる。3位決定戦の対フランス戦で1トライを挙げ、テストマッチでの年間トライスコアを17としたロコソコ、日本代表の大畑大介が2002年に打ち立てた世界記録に肩を並べた。

代表メンバー最年長の威厳を見せつけたジャスティン・マーシャル(30歳)。オールブラックスのメンバーに初抜擢された1996年以降、身長179センチと比較的小柄ながら、チームのコーナーストーン(土台となる石)としてなくてはならない存在。あらゆる状況下でも適格なパスを出し、攻撃の起点を作り出すその判断力はほかに類をみないほど。残念ながら、黒ジャージーを着てのW杯出場は今回が最後となりそうだ。

1999年の前大会に引き続き、チームの主将として全試合に出場したルーベン・ソーン(28歳)。苦戦を強いられた準決勝戦で、チーム唯一のトライを決めるなど貢献したものの、往年のライバル、ワラビーズを前に優勝の夢はもろくも崩れ去った。準決勝試合終了直後のインタビューでは、「本当に申し訳ない」とその落胆ぶりをあらわにしたソーン。大会前から主将交代の是非が問われていただけに、今後の進退が気になるところだ。

観客を魅了する試合前のハカで、毎回闘志むき出しの表情で最前列に立つ“キング・カルロス”こと、カルロス・スペンサー(27歳)。スーパー12でオークランド・ブルースを6年ぶりの優勝に導いたことも評価され、「過去最高のスタンドオフ」とまでいわれたアンドリュー・マーティンスに代わり、同ポジションを獲得。時折見せる芸術的なパスが試合を一気に盛り上げた。チームの司令塔を見事に務めあげた彼への評価は高い。

パワフルな攻撃とディフェンスで、すでにベテランの風格も漂う副キャプテン、タナ・ウマガ(30歳)。チームの大黒柱として前大会に勝る活躍が期待されていたものの、初戦の対イタリア戦で起こったアクシデントにより右足ひざを負傷。深刻な事態は免れたものの、戦線の完全離脱を余儀なくされてしまった。スタジアムを席巻する「Woo, Ahh, Umaga!」の掛け声が聞かれなかったのは残念至極。
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