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釣らざる者、食うべからず?
シーズン到来!フライフィッシング
世界中の釣り人たちの憧れの地、「フィシャーマンズ・パラダイス」の別名を持つニュージーランドで、特に盛んなのがフライフィッシングだ。ゆったりと流れる時間の中で、絵葉書のような風景に身を浸し、静かに魚を待つ至極の時。この国にしばらく滞在するのなら、この極楽を試してみない手はないだろう。
(Quarter 2003秋号より)
Text/Photo by Kanji Saito


今日はどのフライがいいだろう?牧場の中を流れる小川で、青い空の下、のんびりと遊びほうける
澄んだ流れに膝の辺りまで立ち入った釣り人。ロッドを前後に振るたびに、ゆるやかにラインが宙を伸びていく――。
ニュージーランドで川のほとりを歩いていると、こんな風景に出くわすことがあるだろう。フライフィッシングである。ニュージーランドは、フライフィッシングをする人にとっては憧れの地。一生に一度でいいから是非とも訪れたい場所といっても過言ではない。何しろ魚が大きく、おまけにたくさんいるのだ。
フライフィッシングのことをよく知らない人のために簡単に説明すると、この釣りではえさは使わない。その代わり、鳥の羽や動物の毛を素材に、魚のえさとなる水生昆虫や小魚などをまねして毛ばりを作り、これで魚をだますのだ。
魚の目を欺くためには、フライは本物そっくりでなければならない。しかし、ただ見た目が図鑑的に似ているだけでは駄目である。水中を泳ぎ、あるいは水面に浮かぶ、生きている虫の特徴をよく捉え、これを印象付けるようデフォルメすることが必要となる。つまり魚に対しては、絵画でいう「スーパーリアリズム」より「印象派のアプローチ」が有効になる。思い入れの激しい人ともなると、水生昆虫を捕まえてきて自宅の水槽で飼育し、水中でどのような姿勢を取るのか、水面に泳ぎ上がるのか、それともゆっくり浮上するのか、その際に一番目立つ部分はどこかといった研究に余念がない。

底まで見透かせる澄んだ水に、大きなマスがゆらゆらと動いている。何としても釣りたい!
そこまで釣り人を引きつけるフライフィッシングだが、この国でフライフィッシングの対象になるのは、レインボートラウト(ニジマス)とブラウントラウト。どちらも今から100年ほど前に外国から持ち込まれたもので、レインボーはカリフォルニアから、ブラウンは英国からタスマニア経由でこの地に入った。新天地の住み心地がよほど良かったのか、各地で繁殖し、今ではまったく放流はしていない。
だからといって誰も管理していないかといえば、そうではない。ニュージーランドの川と湖の釣りは、ほとんどすべて「Fish & Game」という団体が管理しており、またタウポ湖とそこに流れ込む河川は、DOC(観光保護局)が管理している。だからこれらのマスを釣るには、まずライセンスを購入しなければならない。ライセンスは1日券からシーズン券まであるが、注意しなければならないのは、それぞれのライセンスがカバーしているエリア。自分が釣りをする場所に応じて買わなければならず、万一ライセンスを持たずに釣りをしたり、禁漁区間や禁漁期間に釣りをすると、しっかり処罰が下るので十分注意が必要だ。
さて、いざ釣りに出掛けるわけだが、初めての人はどこに出掛けたらよいものやら、そこからして分からないだろう。ここはまず、プロの釣りガイドに案内してもらおう。
釣りガイドは、釣りが好きで好きで仕方がなく、ほかの仕事ができなくなってしまったような人種であり、フライフィッシングに関して、ある意味、頂点に立つ人たちだ。少々のお金を払っても、腕のいいガイドに案内してもらえば、魚がたくさんいる場所に案内してもらえるだけでなく、それこそ手取り足取り、フライフィッシングの細かいところまで教えてもらえるだろう。その際には初心者であることを告げ、できることなら魚のサイズよりも数が釣れる場所に連れて行ってもらったほうがよいだろう。というのも、たくさんの魚と対峙すれば、それだけ多くのことを学べるわけで、釣り上達へこれほどの近道はないからだ。もっともこれから先、フライフィッシングをするかどうか分からないし、とりあえず話の種、旅行土産の自慢話を目指すというのなら、一発大物狙いというのもアリだ。

幼虫時代を水中で過ごすカゲロウの成虫。マスの大切なえさの1つ。水面に浮かぶカゲロウを印象だけで捉え、表現するとこんなフライに
実はこれからのシーズン、つまり秋から冬にかけては、大物を狙うにはもってこいの季節なのだ。ターゲットは秋から冬に産卵のために上流へと移動するマスたち。特に湖に住んでいる魚は、流入河川へとまるでサケのようにさかのぼってくる。春から夏の間に虫やら小魚やらを腹いっぱいに食べ、丸々と太ったマスたちが、一雨降るごとに上流を目指す。この時、マスたちはサケと同様、まったくえさを取らないので、フライフィッシングもえさに似せたフライではなく、マスの卵、イクラを模したフライを使う。マスたちがなぜイクラを口にするのか、その理由については諸説紛々あるけれど、雨が降ってちょっと濁ったような川でこのフライを使うと効果は絶大だ。産卵遡上のマスは大概の場合、群れで動くもの。運良く群れに当たれば、日本の釣り人たちがねたみとそねみのよだれをだらだら垂らしてしまいそうな大きなマスが、ぽこぽこ釣れてしまう。
フライフィッシングでは、釣った魚を殺さずに逃がす「キャッチ&リリース」が普通となっているが、この遡上期のマスだけは別。ぷりぷりと太って実においしそうなので、これを食べないのはあまりにももったいなさすぎる。ぶつ切りにしてステーキ風に焼いてもいいし、三枚に下ろし、レモンの絞り汁で一晩和えてから焼くのもうまい。もちろん、しっかりと塩をして、塩鮭風に作るのもグーだ。
ニュージーランドでは密漁防止の意味で、マスの売り買いは禁じられている。レストランでも魚屋でも手に入らない。つまり、「釣らざる者、食うべからず」である。新鮮なマスを食べたかったら、さあ、釣り竿を手に出掛けよう。
斎藤 完治 Kanji Saito
1986年、フライフィッシングをするため1年の期限付きで日本を後にするが、“釣り天国”のニュージーランドでそのまま帰らぬ人となる。以降11年間、フィッシング・ガイドとして大勢の観光客を魅惑の世界に引きこみつつも、ある日、人の案内ばかりで自分の釣りができないことに我慢できなくなり、フリーライターに転向。雑誌『アウトドア』『フライロッダース』『フライフィッシャーズ』など多数に寄稿。著書に『巨大鱒に魅入られ、ニュージーランド暮らし』(つり人社)、『極楽ニュージーランドの暮らし方』(山と渓谷社)などがある。